女性表現者にとって「表現の現場」は「排除と搾取のハイブリッド構造」。表現の現場調査団が「ハラスメント量的調査白書2024」を公開
美術分野の調査結果
美術分野回答者の年齢分布は10代から30代が合わせて25%、40代以上が75%となった。なお今回の調査では、ハラスメントの経験を聞く質問においてアカハラ以外の項目で「10年以内の経験」に限定している。 美術分野の特徴としてジェンダーハラスメントがあげられたほか、近年のギャラリーストーカー問題への関心の高まりがあってか、ギャラリーハラスメントについても発表された。
ジェンダー間の圧倒的なパワーバランス
本調査に関わった社会調査支援機構チキラボは、「3回の調査を経て鮮明になったのは、女性表現者にとって『表現の現場』は「排除と搾取のハイブリッド構造」になっている」と指摘。今回の調査でわかったこととして、「(1)女性表現者は男性表現者と比べ、そもそも最多年収が低い」「(2)他方で高年収帯に足を踏み入れた女性表現者は、男性以上にハラスメントに遭いやすくなるという傾向」「(3)逆に、最多年収が低い女性表現者は、ハラスメント被害が抑制される」ということを挙げた。 また女性表現者は、「低賃金労働で『表現の現場』にとどめ置かれ続け、パワー領域からは排除され続ける。消費とケア、低賃金労働の役割を担わされつつ、社会評価や安定所得からは退けられる。こうした搾取の構図が見えてきました」と結論づけた。そのうえで、以下の提言を行った。 (1)「表現の現場」のジェンダー間の圧倒的なパワーバランスの是正 女性表現者の前に横たわる「排除と搾取のハイブリッド構造」を是正するには、まずパワー領域からの女性の排除を無くしていく必要があります。 具体的には ・「表現の現場」における集団内部での指導的 ・管理的立場へ女性を登用する。 ・ノミネートや栄典、賞の審査員のジェンダーバランスを改善する ・性別などを意識しないブラインドテストや、ジェンダー表現などの価値見直しを通じ、受賞者傾向にあるバイアスを取り除いていく ・排除されている低収入帯にある表現者の待遇を改善する ・契約環境を改善し、非合理な報酬基準を変えていく (2)現在の「表現の現場」における労働環境の改善 具体的には以下の曖昧化された項目の是正が必要となると思います。 ・長時間労働の是正 ・表現活動に伴う追加修正や確認作業、拘束時間や対応期間をあらかじめ明記しておく ・現実的なスケジュールの作成 ・運搬費用や交通費、設備使用料などの明確化 (3)表現の現場特有のハラスメントとしてのレクチュアリングハラスメントを知り、教育や指導という場面のあり方を見直す取り組み 具体的には ・レクチュアリングハラスメント防止の啓発・教育や指導のあり方を見直す ・「表現の現場」ではこれまで、「才能」「ひらめき」「創造力」「インスピレーション」などの言葉が多用されてきました。他方で表現の現場では、他の社会領域と同様に、あるいはそれ以上に、性役割意識が強く、ハラスメントも横行し、同一労働同一賃金から遠ざかっている分野になっていました。ハラスメントを防止するためには、権威勾配の見直しや教育技法の共有などが必要となります。本調査を受けて、表現の現場を、多様な才能を発揮しやすい安全で豊かな場所になるよう、見直すことを求めたいと思います。 「ハラスメント量的調査白書2024」は表現の現場調査団の公式サイトからダウンロードすることができる。 各分野の詳細な調査結果や、有識者によるコラムも掲載されているので、こうした問題に関心がある人はぜひ一読してほしい。
Art Beat News