半導体設計担う「ファブレス」、TSMCの熊本県進出で注目…九州で誘致や人材育成の動き活発化
ライバル増はプラス
TSMCの熊本進出をきっかけに、九州の自治体などによるファブレスの誘致は活発化している。AIなどの半導体を手がける横浜市のシンコムは昨年4月、北九州市の誘致で市内に拠点を開設した。九州発のファブレスの草分けで、旧世代型の半導体の再設計を手がけるロジック・リサーチ(福岡市)の土屋忠明社長は「ライバルが増え、技術力を競うことは日本の半導体産業にとってプラスだ」と歓迎する。
課題となる人材育成の取り組みも広がっている。九州大は5月、福岡市で米国の大学と連携して「回路設計に関するワークショップ」を開催した。日米両国は経済安全保障の観点から中国に依存しない半導体の供給網の構築を目指しており、在福岡米国領事館が支援し、学生らが参加した。
半導体設計ソフトを販売するジーダット(東京)は3月、全国の高等専門学校にソフトの提供を始めると発表した。担当者は「人材育成は業界として喫緊の課題。国産の設計ソフトを知ってもらうきっかけにしたい」と狙いを語る。
ジーダットのソフトを活用した教育に取り組む有明高等専門学校(福岡県大牟田市)の石川洋平教授は、「公教育の段階から設計に触れてもらうことが今後、一層、重要になる」と指摘している。
「垂直統合」かつては主流
半導体業界ではかつて、一つの企業が開発から生産までを行う「垂直統合」が主流だった。
1980年代頃まで東芝やNEC、日立製作所など、垂直統合型の日本メーカーが世界で高いシェア(市場占有率)を誇った。しかし、設計の高度化に伴って米シリコンバレーを中心に専門のファブレスが台頭した。こうした中、製造に特化した世界初のファウンドリーとして87年に誕生したのがTSMCだ。
90年代以降、ファブレスには参入が相次ぎ、ファウンドリーはこうした企業から製造を受託することで工場の稼働率を高めた。相乗効果で両者が急成長する中、日本勢は流れに乗れず、衰退の一因となった。
一方、垂直統合には製品化まで一貫して管理できるメリットもある。半導体大手の米インテルや韓国のサムスン電子、メモリー半導体のキオクシアなどは現在も一部で垂直統合型の生産体制を維持している。