半導体設計担う「ファブレス」、TSMCの熊本県進出で注目…九州で誘致や人材育成の動き活発化
半導体の設計を担う九州の企業が活気づいている。受託製造で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県への進出を受け、業界全体の注目度が高まっているからだ。設計企業は九州には少ないが、今後の地場経済の成長のカギを握るとされ、誘致や人材育成に力を入れる動きも目立ち始めた。(姫野陽平) 【図表】半導体生産の流れのイメージ…顧客の依頼受けてファブレスが回路図を製作し、ファウンドリーが納入
最先端
6月中旬、熊本空港から車で約10分の産業団地「テクノリサーチパーク」(熊本県益城町)。オフィスビルの一角でエンジニアたちが、パソコン画面に映し出された回路図に向かって作業していた。2013年創業の半導体設計会社メイビスデザインが6月に熊本市から移した新本社だ。
家電や自動車、産業機械など、様々な分野の顧客から設計を受託している。性能を決める回路の線幅で現在、世界最先端とされる3ナノ・メートル(ナノは10億分の1)の設計実績もあり、従業員100人で23年度の売上高は13億円に上った。
4年後までに人員、売上高とも倍増させる計画で、オフィスが手狭になったため、関連産業が集積する産業団地への移転を決めた。業界全体に注目が集まる中、池田浩司社長は「今は好機。『熊本から世界へ』をスローガンに、世界最先端への挑戦を続けたい」と意気込む。
分業化
メイビスのように工場を持たず、設計などに特化した企業は「ファブレス」と呼ばれる。一方、製造を受託して大規模な工場で量産するTSMCのような企業は「ファウンドリー」と呼ばれ、現在の業界は分業化が進んでいる。
工場建設に1兆円規模が必要とされるファウンドリーに対し、ファブレスは大きな投資が不要で参入しやすい。ただ、「シリコンアイランド」と呼ばれ、半導体関連企業約1000社が集積する九州でファブレスは5%に満たない。開発は大手メーカーが本社を置く東京などで担ってきたからだ。
生成AI(人工知能)に使われる半導体の開発を手がけるファブレスの米エヌビディアは創業から約30年で時価総額約3兆3400億ドル(18日時点、約530兆円)と、世界トップ級に躍り出た。九州大の安浦寛人名誉教授は「九州の半導体産業の発展には設計企業の振興が欠かせない」と指摘する。