「国の指示待ちでは間に合いません」防災家が語る“多数派に流されない危機管理法”
五感を磨くことが危機管理能力を高める
地道な活動を経て、現在はメディアをはじめ、全国各地の学校や企業、被災現場などで独自の防災対策について伝え続けている。 その活動のスローガンが「フィードフォワード」だ。フィードフォワードとは、人間が持って生まれた五感を駆使して自ら身を守る行動を起こすこと。 「今はスマホで簡単に情報が手に入る時代ですが、その情報に惑わされて“自分らしさ”を見失ってしまう方が非常に多い。防災で大事なのは、見る・聞く・嗅ぐ・肌で触れて感じとる、といった人間本来の機能をきちんと活用することです」。
この”人間本来の機能”は、実際の災害時にどう役立つのか。 「自分の五感を活かすことで、自ずと主体性、能動性を持つことになります。例えば、大多数が右へ向かって歩いているけど、変な音がしたから僕や私は別の道を選ぼうとか、ここで待機する指示があったけど何か燃えている匂いがするから離れようとか。そういったことを自分で考えて動けるようになります。 多数派に流されるのではなく、日頃から自分で考え、自らの感覚で行動することが危機管理能力を高めることになるんです」。
もはやスマホやネットなしの生活は考えにくいが、五感を養い、危機管理能力を高めるためには、登山やサーフィンなど、自然を相手にしたアウトドアスポーツがおすすめだという。 「自然の中に身を置くことで五感も研ぎ澄まされて、肉体的な機能も高まりますから」。
防災対策、避難所は自分たちで作ってしまえ!
災害時、「日本は“待ち”の姿勢が多い」という野村さん。 「国や上からの指示を待っていたら、防災は間に合いませんよ。特に近年は災害が多いから。自分が住む地域は、自分たちで変えていかないと」。 現在、日本全体に足りていないのが「臨機応変さ」、そして自治体レベルでの取り組みだという。野村さんは各自治体や教育関係とも連携した防災活動を行なっているが、そこには「ないものは作る」というクリエイティブさも求められる。
「日本には1700ほどの市町村があり、それぞれの環境に即した避難所の運営方法や災害対応が必要なんです。すごく手間のかかることですが、僕からしたら逆に『1700通りの防災対策を作るチャンスが残っている』って思ったんです。 例えば、公共施設に限らず、デパートやマンションだって一定の条件をクリアすれば指定避難所にできるんです。指定避難所には災害時に水や食料、日用品などの物資が集まる。近所の良く行くお店を指定避難所にできれば、遠くまで行かなくて済むし、自宅との往復もラクでしょう」。 たしかに、馴染みの場所なら避難しすいし、集まる避難者たちも顔見知りで安心する。何より、被災時に遠くの避難所まで行く危険性もない。 「ある中学校では、『防災部』を作ったこともあります。部員の子たちが小学生と一緒に街を散策しながら帰ったり、休日に消防団と一緒に訓練したり、防災イベントもしました。災害時、避難所行きのバスを早めに出すという試みを提案したこともあります」。
ほかにも、「子供連れや高齢者、障がい者など、避難者の状況を把握できる二次元コードを開発したい」「避難所や公園などにオムツやナプキンなどの自販機を設置し、災害時は無償で提供できるようにしたい」など、経験を活かした野村さんのアイデアは尽きない。 ◇ オーシャンズ読者であれば、自然を楽しみながら五感を磨いている人も多いはずだ。そのうえで、いつか起きる災害に備えて、自分が住む地域の被害を最小限にできることを考えたい。 佐藤ゆたか=写真 池田裕美=取材・文
OCEANS編集部