解雇規制緩和、どんな人がクビに? 竹中平蔵「人がハッピー暮らせる社会から年々遠のいている」追い出し部屋、退職勧奨…
解雇できないから生まれる「追い出し部屋」「一方的な退職勧奨」
そして企業・人材の生産性上昇率はどんどん低くなり、経済が成長しない「失われた30年」を日本は過ごしてきたのです。私は日本の経済を成長させる過程において、この規制緩和は必要不可欠だと思っています。本当に成長を伴う、成長戦略をつくるのであれば、成長できる産業を自由にさせないといけない。これはそういう作業なのです。 判例のおかげもあって、日本の失業率は諸外国に比べて低いです。しかしそれは、企業の新陳代謝とトレードオフした結果でしょう。日本の経済成長は鈍化し、所得も上がらず、人々がハッピーに暮らせる社会から、年々遠のいているのです。結局、自分の首を自分で締めていることに、気づくべきでしょう。 解雇できないからこそ、経営が苦しい企業は希望退職を募ります。希望退職は文字通り手を挙げた社員を対象とした人員整理です。しかし、会社側に強制力がないからこそ、日本では、希望者が集まらなかった場合は社員をいわゆる「追い出し部屋」に異動させるといった事態も起こっています。また中小企業の中には、一方的な解雇と同等の退職勧奨を実施する会社もあります。対象になった社員は泣き寝入りするしかないのです。そういった社員を守るためにも、解雇のルールの議論を深めるべきなのです。
金銭解雇のルール化で誰が解雇されることになるのか
だからこそ金銭解雇のルール化は必要なのです。金銭解雇とは企業が労働者を解雇するに当たっては、きちんとした金銭を支払うという制度です。十分な補償を与えた上で解雇することにより、労働者は生産性の低い組織から高い組織に移動することができ、そうなれば給料も上がります。金銭解雇のルールができれば、当然企業は生産性の低い人から解雇することになります。働かない社員が真っ先に解雇の対象になるかもしれません。したがって大企業の働かない社員からも、このルールは大きな反発を受けることになるでしょう。しかし、この制度は、そういった人たちに前を向いてもらうものにしなくてはなりません。しかるべき金額を使って、その間にリスキリング教育を自ら受け、次の職を探せばいいのです。 また労働移動により生産性の高い部門に生産要素が移り、経済全体を効率的に成長させることができます。これはマクロ的にもミクロ的にもいいことなのです。日本経済を成長させるためには、労働市場を改革しなくてはいけません。全ての基本がそこにあります。 失われた30年に終止符を打つためには、雇用の流動性を高めることが必要不可欠です。この議論を、いつまでも曖昧なままにするべきではありません。その場しのぎの政策を打ち出したりするのではなく、次の20年、30年のこの国の形を見据えた大英断が今こそ必要です。
竹中 平蔵