米フェンダーCEO、世界唯一無二の原宿旗艦店の成功から見る「アジア市場」への期待
2024年限定の日本製新モデルやブルガリとのコラボモデル
―日本では、2024年限定の日本製新モデル【Made in Japan Limited Kusumi Color Telecaster® Thinline】が9月20(金)より販売開始されました。とてもかわいらしいモデルですが、こういった商品の発売は近年フェンダーが取り組んできた新たなファン層獲得への取り組みの一環と考えていいですか? これは私がナイキの経験から学んだことでもあるんですけれども、どの分野でもマーケットのリーダーでい続けるためには、消費者にユニークなものを提供し続けなければならない、他とは違う差別化をしていくということが必要だと考えています。NIKE iD(PCやスマホから自分だけのオリジナルシューズなどをカスタマイズ&オーダーできるシステム)があったように、フェンダーも「Mod Shop」で自分好みのオリジナルのギターを注文できて非常に好調ですし、、限定モデルや、少量生産をこれからも増やしていきたいと思っています。みなさん常に「もう1本欲しい」って思うでしょうし、「Mod Shop」ならオンライン上で自分の好きなボディーを作ることもできます。 ―このギターに代表されるようにいわゆるベッドルーム・ミュージシャン として、部屋にインテリア的にギターを置いておくっていう需要もその原宿っていう店舗にはとても似合うんじゃないかと思いますけども、そういうイメージはありますか? スタンウェイのピアノで一番売れているのは、やはり家で自分で弾くっていう需要が多いみたいで、そのような場合にはスタンウェイでも家具になってしまうのかもしれないですし、家に置いておいて楽しむっていうような使われ方をするのかもしれませんけど、まあ、ギターは家具ではありませんで(笑)。それは私たちの意図しているところではなくて、ポップカルチャーとその楽器の接点を作りたいと思っているんです。ただ、何年か前にハローキティのバージョンを出したんですけれども、また似たようなモデルをいずれ発表するかもしれませんよ。 ―今後こういったアーティストとコラボレーションしたいとか、イメージされていることはありますか? 私たちは、アジア太平洋地域という場所をストリーミングであれ、ライブミュージックに行く人たちの数であれ、音楽の世界で最も高成長する音楽の地域だというふうに見ています。こういったアジア太平洋地域のほとんどのマーケットでは、音楽のファンたちは地元の音楽を聴いているんです。今後日本のアーティストあるいは中国、韓国のアーティストによるシグネチャーモデルがどんどん出てくるでしょうね。音楽界でよりローカルな要素というのが重要視されていくと思いますし、単にアメリカから日本や中国に輸出するというのではなくて、現地の音楽シーンの一部になっていくと思います。世界のどこの地域に重点的に投資していくかということを考えたときに、人材の面でも資金面でもアジア太平洋を最も重視しています。 ―ちなみに、ブルガリとコラボしたギターと時計がカスタムショップを発表されましたが、どんな印象を持っていますか。 いくつかのラグジュアリーブランドとのコラボをしていまして、ルイ・ヴィトンやスタンウェイともやってますし、カメラのライカともコラボしてるんですね。アンディー・サマーズがライカのカメラをすごく使っていて写真もよく撮っているので、ストラトキャスターとライカをコラボさせて写真をボディにプリントしたいということで、リクエストに応えたこともあります。ブルガリとのコラボは、音楽を通して若いコンシューマーにアピールしたいということでということでアプローチをいただきました。どのブランドもアプローチしてくる理由は違うんですけれども、ブランドミックスから生まれる何か新しいものを求めて行っています。 ―そういったコラボに関しては、こちらもすごく刺激的なプランを楽しみにしています。 ただですね、最近はどこでもコラボしたがっているので、慎重にしないといけないと思っています。やりすぎてもいけないので、良い時期とタイミングでバランスをとることが必要だと思います。 ―楽器以外の製品についてもお聞きします。Fender 初となるデジタルサウンドプロセッサー「Tone Master Pro」や「Mustang Micro Plus」など様々な新製品が出ていますが、こうした楽器以外の製品開発において、どのような戦略を持っていますか。 10年前は、ギター、エフェクター、アンプを繋いで演奏するのが普通でしたが、今はギターとコンピューターとオーディオ・インターフェースのモデリングというふうに、常にコンピュータがどこかに存在しているんです。バーチャルなギターであれ実際のギターであれ、もうコンピュータが一つのセットの中に位置づけられているわけです。私たちはその分野でもリーダーになりたいと思ったのですが、少し参入が遅かったんですよね。しかしこの分野に参入することにしたきっかけがあるんです。それは、私がディズニーにいた頃に、スティーブ・ジョブスさんがよく私に「参入が遅れても構わない。それでより良い製品を出せるならば」と言っていたことなんです。そこで、ユーザー・インターフェースをより良いものにしようという努力をしました。つまりマニュアルがなくても直感で操作できるような、シンプルなデザインで常にソフトウェアをアップロードできるようなインターフェースを作ったんです。iPhoneは、ほとんどユーザーがオンラインマニュアルとかを使わなくても操作できてしまうぐらい、ユーザーフレンドリーですよね。同じように、マニュアルを読み込まなくてもボックスから出してすぐに直感で使えるようにすべきだというのがこれらのデジタル製品に対する私の考え方です。 ―今後、フェンダーは世界中の音楽ファンとどのようにコミュニケーションをとっていこうとお考えでしょうか。 私は2015年にCEOに就任して今年で9年目なんですけれども、その2015年当時の会社の規模は4億ドルで、その中で1600万ドルをマーケティングに費やしていたんです。2015年当時からあらゆるアーティスト、コンシューマーをターゲットにしてきて、今やもう数10億ドル規模の会社になり、マーケティングには1億ドルを費やしていますが、主にSNSを通じての活動に力を入れています。そういった取り組みを通して、楽器とデジタルサービスからなる「フェンダーエコシステム」というファンたちのコミュニティを作ってきて、現在2000万人のファンがいます。そういうデジタルで繋がっているファンたちに対して、製品に関してや、アーティストとのコラボレーションや、フラッグシップ・ストアがオープンしましたというようなお知らせなども幅広くSNSを通じて行っています。そうしたSNSを駆使したやり方がこれからもファンのコミュニティを広げていってくれるでしょうし、ファンの声に耳を傾けるツールになると思います。ただ、ひと言申し上げると、そのようなソーシャルメディアが発達したといっても、やはりブランドと消費者が対面で接することほど素晴らしく優れたものはないと思います。そういった意味で、「FENDER FLAGSHIP TOKYO」は非常に意味があると思います。 ―「FENDER FLAGSHIP」は今後、東京以外にオープンするお考えはないですか?「なんでアメリカにないんだ!?」と思っている海外のアーティストもいると思うのですが。 「なぜ東京なのか」という答えですが、表参道は非常にユニークな立地で、まず歩いている人たちの密度が非常に高いということ。そういったタイプのストリートというのは世界に4つしかないと思います。ロンドンのオックスフォード・ストリートにはナイキの店舗がありますし、上海のナンジンロードや、韓国のソウルにあるストリート、そして東京の表参道・原宿というのは、人口密度が非常に高いので、自分たちの経験を生かしていくという意味では投資のしがいがあると思います。先ほども申し上げたように、アジア太平洋地域が非常に成長の潜在力が高いので、そういった地域の小売りの店舗等、また原宿の「FENDER FLAGSHIP TOKYO」とは異なるコンセプトのストアというのも考えていきたいと思います。 フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEO アンディ・ムーニー氏 ナイキ、ディズニー・コンシュマー・プロダクツ、クイックシルバーといったアパレル&ライフスタイル&エンタテインメント業界のグローバルブランドでCMOやCEOを歴任したのち、2015年6月、フェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーションのCEOに就任。豊富なビジネス&マーケティングスキルを生かし、デジタル施策を含めた大胆な取り組みをグローバル展開中。プライベートでは自身でもバンドを組むほどの音楽好きで、ギターコレクターでもある。
Takayuki Okamoto