米フェンダーCEO、世界唯一無二の原宿旗艦店の成功から見る「アジア市場」への期待
米フェンダーCEOアンディ・ムーニー氏が、世界初の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」のオープンから1年の振り返り、そして今後の展望をRolling Stone Japanに語ってくれた。 【写真ギャラリー】Fenderから続々と発売されている様々な商品 フェンダー社が世界初の旗艦店「FENDER FLAGSHIP TOKYO」を東京・原宿にオープンしてから1年3カ月が経過した。オープン以来製品の販売のみならず、様々なストアイベントを行い、国内外のアーティストも数多く訪れており、これまで同エリアにはなかった音楽的に大きな存在感を発揮している。それでいてすっかり街並みに溶け込んでおり、これまで楽器店にあまり訪れることのなかった初心者や女性ユーザーへの訴求にも繋がっているようだ。 近年のフェンダー社の姿勢は、そんな新しいファン層獲得へ積極的な一方、有名アーティストのシグネイチャーモデルを続々と誕生させるなど、プロミュージシャンに向けてより真摯で職人的な向き合い方をしているように思える。今回、フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ コーポレーションCEO アンディ・ムーニー氏をが来日しているということで訪ね「FENDER FLAGSHIP TOKYO」オープンから今に至る手応えから、今後の展望に至るまで話を訊いた。 ―「FENDER FLAGSHIP TOKYO」はオープンから1周年を迎えましたが、どんな手応えを感じていらっしゃいますか。 素晴らしい感触を得ています。当時から楽観的な見通しは持っていたんですけれども、現実はそれをはるかに超えるものでしたし、私たちの店舗を訪れる方たちから多くのことを学びました。この「FENDER FLAGSHIP TOKYO」がオープンしたときに、日本国内の特に東京都内の私どものディーラーの方たちが、「自分たちの売り上げが減るのではないか?」という大きな懸念を持っていましたが、実際蓋を開けてみるとこういったディーラーのフェンダー製品の売り上げは、これまでで最高となったんです。私もナイキでニューヨークやロンドンのフラッグシップ・ストアを手がけた経験がありますので、それと同じようなことが日本でも起こるだろうと最初から自信を持っていましたが、ディーラーの方々の懸念の理由もよくわかりました。そういったディーラーともお互い支え合って、私たちがやっているプロモーションやマーケティングの情報なども提供することで、逆にフラッグシップ・ストアの勢いをディーラーのみなさんにも活用していただきました。 ―そういった意味でも、本当に想像以上の得られるものがあったということですね。 そうですね。一つ予想外だったことは、「F IS FOR FENDER」というアパレルの商品が予想を超える非常に素晴らしい業績だったことです。私どもの店舗に訪れてくださる消費者の方をざっくり一般化しますと、二つのグループに分けられると思います。一つは単にギターを弾く弾かないに関わらず、お店にやってきて、高品質のファッションを楽しむTシャツやキャップ、トートバッグを買うお客さまです。そういったライフスタイルの商品というのはディーラーでは扱っていませんので、そういう利点があります。二つ目の消費者タイプは、本当にギターを弾く方たちです。「FENDER FLAGSHIP TOKYO」は世界にどこもないほど、ギターの見せ方というのが独特でこの店舗でしか買えないユニークなモデルもありますので、店を訪れて商品を見て試してから、実際には買うのは地元のディーラーで、というお客さまのタイプもいますね。 ―実際、私も原宿に行くたびに必ず「FENDER FLAGSHIP TOKYO」に寄ってギターを見ています。 それはありがとうございます。ぜひお買い物もしてもらえると嬉しいです(笑)。 ―もちろんです(笑)。国内外からもいろんなアーティストが訪れているそうですが、アーティストからの反響というのは耳にしてますか。 とても素晴らしいフィードバックをアーティストの方たちから得ています。世界的なプラスのアーティストたち、例えばブルーノ・マーズがインスタグラムにアップしてくれたり、フィードバックは素晴らしいものがあります。先週の土曜日には、ナイル・ロジャーズが来てくれたんです。インストアイベントを開催しましたが、ちょうど誕生日だったので、誕生日会も開いてあげたんですよ。そういうアーティストが集まるようなコミュニティ・スペースになっています。 ―今、ブルーノ・マーズの名前が出ましたけれども、ブルーノ・マーズのストラトキャスターをはじめ、最近アーティストのシグネチャーモデルが多数発売されていますね。フェンダーにとって、シグネイチャーモデルはどんな戦略的な意図があって制作されているのでしょうか。 非常に重要なことだと考えていて、それには2つの理由があります。一つはアーティストの具体的な要求に応えるということ。最近、ジャック・ホワイトのテレキャスターが発売されたり、シグネイチャーのアコスタソニックやアンプも発売されましたが、私たちが製品を開発していく上で、アーティストから新しいアイディアをどんどん学んでいるんです。ブルーノ・マーズのシグネーチャーモデルは、少し古びた感じの仕上げにしてほしいというリクエストだということだったんですが、やりすぎるのも良くないと思ったので、彼のリクエストに基づきながら、時間をかけてちょうどいい塩梅のものに作り上げていきました。 こういったことも将来的に製品に生かしていきたいと思っています。そうしたアーティストから学ぶいろいろなアイディアというのは、外見上のフィニッシュとかですね。そういうものの進化もありますし、機能的な進化という二つの面での進化をもたらしてくれると思います。アンプ然り、ジャック・ホワイトのギターモデル然りなんですけども、これほどのレベルのアーティストがフェンダーの製品を持ってプレイしてくれると、ブランドにとってそのこと自体が素晴らしい意味を持っています。 ―アコスタソニックのシリーズは2019年に発売されて以来、画期的なギターとして浸透していますよね。そのアコスタソニックとアーティストの初めてのコラボレーションとして、ビリー・アイリッシュの兄でプロデューサーとしても知られるフィニアスのシグネチャーモデルが発表されました。何故、一番最初のシグネチャーモデルがフィニアスだったのでしょうか? アコスタソニックはとても進化した楽器です。アーティストというのは何かあまり変化を受け入れることに積極的ではない人たちでありますけれども、アコスタソニックというのは、特にレコーディングに関心を持っているアーティストからは、非常に好評を得ています。フィニアスは特にレコーディング・マスターですから、アコスタソニックに引き付けられたというのは自然な流れだったと思います。オンボードエフェクトであったりとか、いろいろなリクエストがありましたが、彼らがリクエストを出してきて私たちが作った楽器がステージで演奏されるというプロセスをフェンダーはこの70年間やってきましたので、アーティストからのフィードバックは非常に貴重です。US製のアメリカン・アコスタソニックは非常に画期的なんですけれども、高価ということでトップレベルのアーティストがレコーディングに使うことが多いですが、フィニアスは彼のファンにもそういうギターをプレイできるようにしてほしいということで、アメリカンモデルだけじゃなくてぜひメキシカンモデルもどんどん作ってくれと言ってきているんです。来年はもっと価格を下げたアコスタソニックを出して、トップアーティストだけでなく多くのプレイヤーたちの手に渡るように、広くマーケットのニーズに応えていきたいと考えています。