脱炭素に向けた電力の再エネ化やEVの普及は、どのように促進するべきか
武田 巧(明治大学 政治経済学部 教授) 地球温暖化の抑制は、21世紀最大とも言える課題です。2100年までの平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えようというパリ協定が2015年に締結され、その一環として日本でも2050年のカーボンニュートラル達成、それに向けた2035年のガソリン車の新車販売禁止などが既に表明されています。しかし日本は再エネ(再生可能エネルギー)主体に改めるための電源構成の転換や、EV(電気自動車)の増産・普及において、遅れを取っているのが現状です。課題解決のためには、どのような制度的枠組みを構築すべきかを考えていく必要があります。
◇旧体制からの壁が高く、せっかく発電された再エネも活用しきれていない 日本における2022年度の発電電力の割合は、火力発電が70%以上を占めており、次いで太陽光9.2%、水力7.6%、原子力5.6%、バイオマス3.7%、風力0.9%、地熱0.3%という順で構成されています。再エネは、火力と原子力を除く5種で、すべて合わせて22%程度です。 日本の2030年のエネルギー基本計画では、火力41%、原子力20~22%、再エネ36~38%を目標としていますが、同年の他国の再エネ目標は、たとえばイタリアなら72%、ドイツなら80%にも上ります。G7では、2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化することに合意しており、日本は発電時にCO2排出量を抑えられる再エネの比率を上げることが急務です。それにもかかわらず、なぜ日本の再エネ化は進んでいないのでしょうか。 大きな理由として送電の問題があります。2012年7月に開始された全量買取制度などにより、日本は太陽光発電の発電容量を世界第3位にまで高めました。しかし、この電力を十分に生かせていないのが現状です。 日本既存の9電力会社、沖縄を加えると10社は、2016年4月からの電力の小売り全面自由化まで、地域ごとに独占状態だったこともあり、今なおエリアを越えて大規模な電力を融通しあう送電網が十分に整備されていません。結果、太陽光なら九州や沖縄、風力なら北海道や東北が発電の好適地ですが、そこから電力需要の大きな大都市圏に直接送電することができないのです。さらに東日本と西日本で電源周波数が違うことも障壁となっています。 また、蓄電池が十分に発達し、各電力会社が備えをしていれば、電力を貯めておくことも可能でしょうが、その整備も進んでいません。加えて、風力や地熱などの発電施設を建設するには、環境への負荷などを調べる必要があり、これも普及を押し止める一因になっています。 日本で再エネ化を促進するには、技術的な環境改善に加え、技術が充分に活用できるだけの体制を整えていく必要があるでしょう。