脱炭素に向けた電力の再エネ化やEVの普及は、どのように促進するべきか
◇めざすべきは脱炭素。ゴールに向けた制度の構築や自動車の開発に尽力を めざすべきはあくまでも脱炭素であって、その唯一の解がEVとは限らないでしょう。今後、燃料電池自動車や水素自動車、あるいはまったく別のタイプの自動車が覇権を握るかもしれません。しかし当面は、EVが地球温暖化を抑制するためのカギになるとは思います。 現在はEVに対する需要が一回りし、供給過剰になって、EVの販売が減速傾向にあります。ドイツが補助金を打ち切った影響もあるでしょう。EUではガソリン車に対する規制も一部緩和されました。テスラの株価も大きく下がっていて、逆に言えば、今こそ日本が市場を巻き返すチャンスです。メーカーには、EVのさらなる研究開発や生産に注力していただきたいと思います。そして長期的には新たな技術を模索し、CO2を排出しない自動車の開発に向かってほしいものです。 今や自動車産業で日本が占めていた世界的な地位が脅かされており、国を挙げて対応する必要があります。EVの高速道路料金を安くしたり、専用ゲートをつくって優先したり、諸費用や税金面を軽減したりなど、EV普及に向けて制度を変えていく必要があるでしょう。 トヨタの燃料電池自動車MIRAIに対しては、日本全体のエコカー補助金だけでなく、東京都からも、さらには港区からも、購入した住民に対して補助が出ています。こういった施策を積極的に講じていくことが大切です。まだまだ少ない充電スポットの整備も、国が関与しなければなりません。 もちろん思い切った舵取りをするうえでの課題もあります。EVはガソリン車に比べて必要とする部品点数が大幅に少ないため、EV普及は部品メーカーにとって打撃になる恐れがあります。しかし世界的な潮流としては、すでに待ったなしの状態です。日本の主要産業である自動車産業が世界市場から置いていかれると、部品メーカーだけでなく、日本経済全体に深刻な影響を与えかねません。 地球温暖化の抑制が21世紀最大の問題であるという認識が浸透しているかといえば、必ずしもそうではありません。この大きな問題を解決するために、国と企業、両者が歩み寄りながら国民全体の意識を変え、ゴールをめざすしか道はなさそうです。
武田 巧(明治大学 政治経済学部 教授)