【極悪女王で話題】女子プロレスの壮絶すぎる現場、長与千種が語った「狂犬を作るためのシステム」とは?
現在Netflixで配信中の『極悪女王』。元女子プロレスラーのダンプ松本が主人公だが、彼女のライバルとなったのがライオネス飛鳥と長与千種のタッグ「クラッシュ・ギャルズ」だ。今回はメンバーのひとりである長与千種の壮絶な下積み時代の様子を紹介しよう。本稿は、柳澤健著『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(光文社未来ライブラリー)を一部抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 独特の「押さえ込み」真剣勝負 全女の知られざるルール プロレスとは徹頭徹尾ショーであり、見世物である。勝敗はあらかじめ決められており、ふたりのレスラーは観客を喜ばせるために一致協力して試合を盛り上げる。 この世界的な常識が、しかし全日本女子プロレスに限っては通用しない。 当時、若手のために用意されたタイトル、すなわち新人王、全日本ジュニア、全日本シングル王座のすべては、驚くべきことに独特の押さえ込みルールの下に行われる真剣勝負であった。 全女流の「押さえ込み」は、次のような手順で行われる。 若手選手たちの試合は20分一本勝負である。あらかじめ決められた時間までは、ごく普通のプロレスを行う。5分の時もあれば、10分の時も、15分の時もある。 リングアナウンサーの「○○分経過」のコールを合図に「押さえ込み」が始まる。 たとえばボディスラムでAがBをマットに投げつける。仰向けになったBは相手が触るまでは動いてはいけない。AがBの上に乗り、相手の両肩(肩胛骨)を3秒間マットに押さえつければAのフォール勝ちである。ただし、相手に乗る際に膝をついてはいけない。 下になったBは、Aが自分の身体に触った瞬間から、ブリッジ等あらゆる手段を使ってフォールを逃れようとする。
ただし、押さえ込みの攻防が始まるのはAがBの身体に触れた瞬間からだ。それ以前にうつぶせになったりブリッジをすることは決して許されない。Bがフォールを免れれば攻守は入れ替わり、今度はBがAを攻撃する。 先輩と後輩が対戦すれば、後輩に先に攻めさせることが不文律となっている。 押さえ込みでは体重のある選手が圧倒的に有利だが、ジャガー横田のように小柄であっても首と背筋の力が強く、ブリッジがしっかりしているレスラーであれば、押さえ込まれる可能性は低い。 押さえ込みルールの試合は、観客が見て面白いものではまったくない。喜ぶのは松永兄弟(編集部注:全日本女子プロレスを創業した三男・高司を中心とした次男・健司、四男・国松、五男・俊国の四兄弟)だけだ。兄弟の中でも互いにライバル心を抱く四男の国松と末弟の俊国は常に賭けをしていた、と長与千種は証言する。 ● 「孤独を知った者でなければ星はつかめない」 仲間はずれにされた長与千種 千種はこの押さえ込みが苦手だった。必死に練習した結果、ようやく少し勝てるようになった頃、同期の間でこんな話が持ち上がった。仲間の中にずっと試合に負け続けている子がいる。このまま負け続ければ、嫌気がさしてプロレスを辞めてしまうかもしれない。次の試合では、わざと負けてあげよう。