「例を見ぬ苛酷な判決」弁護人が判決に対して意見したこと~28歳の青年はなぜ戦争犯罪人となったのか【連載:あるBC級戦犯の遺書】#28
横浜軍事法廷で、被告41人に次々に死刑が言い渡され、女性弁護士が泣き伏した石垣島事件。日本人で弁護人を務めた金井重夫弁護士のハンコが押された「石垣島事件の判決関する意見」という文書が国立公文書館にあった。「事実を誤認され、重罪に」「彼らは行為の違法性を認識にしていない」と指摘した金井弁護士が、さらに判決に憤慨したのはー。 【写真で見る】石垣島を攻撃する米軍(ガンカメラ撮影)
刺した兵はみんな死刑
石垣島事件では、3人の米軍機搭乗員が殺害された。その日、石垣島を空襲していたグラマン機の搭乗員だ。3人の搭乗員のうち、ティボ中尉とタグル兵曹の二人は、それぞれ幕田稔大尉と田口泰正少尉によって斬首された。そして3人目のロイド兵曹が杭に縛りつけられ、数十人の兵によって銃剣で刺突された。ロイド兵曹を最初に刺したのが藤中松雄一等兵曹、そして二番目に刺したのが成迫忠邦上等兵曹だった。金井弁護士は、このロイド兵曹に刺突した兵が一様に死刑を宣告されたことについても不合理さを指摘している。
疑わしきは被告人の有利に従うべき
(石垣島事件の判決関する意見) 1,認定について(続き) (二)判決は三番目に銃剣により刺突された飛行機搭乗員に対し数十名が刺突した後も生きていたと認定している。その結果として、刺突した者はおおかた、「生きていた人を殺害したものである」とした。それは、1人の証人の不確実は証言に基づくものと考えられるが、検察側といえども起訴状付属の罪状項目には、「死体を冒涜し」の一句を入れている程で、この事実の認定は甚だ飛躍的であり、非科学的でもあり、非常識でもある。「疑わしきは被告人の有利に従う」という裁判上の原則は、尊重されねばならない。 この連載の前々回、ロイド兵曹を二番目に刺した成迫上等兵曹の法廷での証言にある通り、藤中松雄が最初に刺した時点で絶命したようにみえたロイド兵曹がずっと生きていたという判決の事実認定に対して、金井弁護士は「非常識」とまで言い切っている。
証拠の採用は偏見を持っていた何よりの証拠
さらに、証拠の採用について金井弁護士の指摘は続く。 (石垣島事件の判決関する意見) 二、証拠について (イ)本判決は、検察側作成の口述書を全面的に有効とし、その内容を事実に合するものとして採用した。しかし、この口述書は大部分、暴行、脅迫、詐言により作られたものであり、ある者は宣誓の事実を否定し、ある者は朗読してもらわなかったと主張し、ある者は問答の無かったこと、又は自己の答弁と違ったことが記載されていると陳述している。そのことは大部分の被告人が公判廷で述べた所であり、検察側作成の口述書が誤謬(ごびゅう)に満ちていることは疑うべからざるところである。 それは無効であるか、少なくとも証拠としての価値が極めて少ないものと言わねばならない。そのようなものを全面的に信用し、主としてこれに基づいて事実を認定したため、前記のような事実の誤認が結果したのであって、その証拠の採用はこの委員会が偏見を持っていた何よりの証拠であると思う。