「物価」は高くなるのに「収入」が高くならないのはどうして? 考えられる理由を解説
テレビやインターネットなどで連日のように見聞きする「物価高」や「賃金」の話題。物やサービスの価格がどんどん上昇する中で、「賃金は変わらないか、上がっても雀の涙ほどだ」と感じる人は少なくないようです。 中には賃金が上がらない理由について疑問に思っている人もいるでしょう。 ▼勤続20年でも年収は「280万円」貯蓄も「30万円」しかないのは少なすぎ!? 転職したほうが良いの? 本記事では、物価だけ上がって賃金が停滞している理由について、基本的なポイントを解説します。
賃金の現状と課題
最初に、日本における賃金の現状を振り返っておきましょう。厚生労働省が公表した令和5年版の「労働経済の分析」によると、日本の一人あたりの「名目賃金(従業員に支払われた金額)」は、過去25年間ほぼ横ばいで推移しています。 過去50数年の動きを見ると、1970年から90年代前半までは一貫して賃金が増加しましたが、90年代後半からは減少または横ばいです。「実質賃金」も伸び悩んでいます。実質賃金は「物価の変動を踏まえた賃金」です。名目賃金が同じ場合、インフレで物価が上がると、その賃金で買えるものが少なくなります。 つまり実質的購買力が低下しますが、日本は名目賃金も実質賃金も問題視されています。ニュースではよく商品の値上げについて報道されますが、物価が上がれば上がるほど、実質賃金の低下を感じやすいでしょう。
物価上昇の中、賃金が上がらない理由
ではなぜ日本の賃金が25年間も上がらないかというと、考えられる要因はさまざまあるようです。厚生労働省が挙げている賃金下押しの要因をいくつかご紹介します。 ●企業の利益処分の変化 先行きの不透明感や将来見通しの低さなどから、企業が賃上げに消極的になった可能性が示唆されています。 ●労使間の交渉力の変化 市場集中度(ある産業における生産や売上がどれくらい少数企業で占められているかの指標)が高く、労働組合加入率が低いと、賃金水準が低い傾向にあります。近年の労働組合組織率の低下が労使間交渉力に変化を与え、賃金を下落させた可能性があります。 ●日本型雇用慣行の変容 「生え抜き正社員(同一企業に勤め続ける社員)」の昇進が遅れたことが賃金下落の一因である可能性があります。 ●労働者のニーズの多様化 女性や高年齢層の就業者割合が上昇しており、これらの労働者の希望賃金が低い傾向にあることや、相対的に求人賃金の低い職業を希望する割合が高いことが、賃金停滞に関係していると思われます。 ●労働時間や労働分配率の減少 労働時間の減少幅が大きいために賃金が下押しされているといわれています。減少要因の1つは、パートタイム労働者比率が上昇したことだと考えられます。また労働分配率(利益のうち労働者に配分する割合)が減少したことも賃金下押し要因です。 ここ20年間で労働分配率はOECD諸国(経済協力開発機構)の中で相対的に大きく低下しました。賃金が上がらない理由は、ほかにもさまざまに議論されています。 海外労働力に頼ることで国内労働力が減っても賃金を上げずに済んだことや、物の価格と賃金が同時に停滞して消費者と企業との間に慢性デフレスパイラルが発生していることなどです。
賃金が長期的に上がっていない要因は数多くある
物価上昇が目立つ中、賃金が25年も上がっていない状況が危惧されています。賃金が横ばいもしくは減少している理由はさまざまであり、簡単にまとめることは難しそうです。 政府は現在「最低賃金引き上げ」や「同一労働同一賃金の施行」などにより賃金上昇を図っています。物価上昇に伴い、今後賃金も上昇していくか、関心の目が向けられています。 出典 厚生労働省 令和5年版 労働経済の分析-持続的な賃上げに向けて- 厚生労働省 令和5年版 労働経済の分析-持続的な賃上げに向けて-(HTML版) 執筆者:FINANCIAL FIELD編集部 ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルフィールド編集部