「コンパスの針をブスブス刺され、ホースで水をかけられ、母親からは…」10年ひきこもった30代女性が経験した壮絶ないじめと虐待「お母さんもいじめられたし、いじめられるのは普通なのになんで頑張れないの?」
人を拒否して、ひきこもる
結局、登校できないまま高校は中退した。通信制の高校に行かされて19歳で卒業。大学受験をして福祉学部に入ったが、1週間で通えなくなった。 そのまま家にひきこもり、光を浴びない生活が何年も続いた。 「心が本当に人を拒否してしまって。日の光を浴びると明るく照らされるから、ご近所さんとか他人に自分の姿が見えるじゃないですか。人目にさらされることが耐えられなくて、誰にも見てほしくなかったんです。自信は皆無というかマイナスで、自分は根性もなくて、学校も通いきれない、醜い存在だと思っていました。 夜も眠れなくなり、苦しくて泣き叫んでいると、母が私の口にタオルとか入れて声を出せないようにして、上から布団をかけて押しつぶすんです。弟も一緒にやれって母に言われて。 弟は私より優秀で勉強も頑張っていたんですけど、私がひきこもって家の中が荒れてからは、グレちゃいましたね。高校で暴れて校舎のガラスを割ったり、消火器をぶちまけたり、家に帰ってこないでゲーセンに入り浸ったりして」 母親に「家にいるなら家事をして」と命じられて料理や洗濯をしたが、初めはうまくできずに怒られてばかり。ニンジンのグラッセを作ったときは、途中で焦がしてしまい、「こんなもの食べられない」と床にぶちまけられた。 息抜きにテレビを観ようとしても「なんで遊んでるの」と怒られる。弟のゲームを借りてプレイするのが密かな楽しみだった。
人が怖くて仕事が続かない
「働かざる者、食うべからず!」 母親にそう言われ、アルバイトを始めたのは20代半ばのころだ。 「無理やり外に出た一番の動機は、住む家がなくなるという危機感です。働かなかったら家を追い出すと言われたから、親の言うことをとにかく聞かなきゃって。ホントに言いなりでしたね。 もちろん、社会復帰できるならしたいっていう気持ちもありました。ずっとひきこもっていて孤独が本当にツラかったから。ちゃんと大学に行ってれば、お母さんもそんなに怒らなかっただろうし、仕事に就いていたら自分の好きなこともできたんじゃないかって思ったし……」 泣きながら自転車で近所を走り、店に張り出された求人募集を見て回った。 最初に勤めたのはファーストフード店だ。商品名の書かれた画面をピッピッと押していくだけなので、レジはどうにかこなせた。だが、周りの状況を見ることができず、無駄な動きをするなと怒られて畏縮するばかり。 「作業が遅いと注意されるだけでもビクビクして、さらに人が怖くなっちゃって……」 1年も経たずに辞めて、また家にひきこもった。 しばらく家にいると母親に「働け」と怒られるので、新しいアルバイトを探し求めて自転車をこいだ。 パン工場の製造ラインで、パンをひねり続ける、バナナを置き続けるなどの単純作業もしたが、他人と一緒に作業することが怖くて、すぐ行けなくなった。 校正の仕事をしたときは働き始めて数日でミスをして大泣きしたら、そのままクビになった。他にもカフェ、コンビニ、事務など10か所近くを転々とした。 「ひきこもりになって、外に出されて、ひきこもりになって、外に出されて、ひきこもりになって……という繰り返しだったんで、ゆるやかに自分を壊していったんですね」 ひきこもった原因である「人への恐怖心」が消えていないのに、無理やり外に出て働いたのがよくなかったのだろう。 ついに限界を超えた白石さんは、とんでもない行動をしてしまう――。 取材・文/萩原絹代
萩原絹代