「コンパスの針をブスブス刺され、ホースで水をかけられ、母親からは…」10年ひきこもった30代女性が経験した壮絶ないじめと虐待「お母さんもいじめられたし、いじめられるのは普通なのになんで頑張れないの?」
ルポ〈ひきこもりからの脱出〉15
中学時代に壮絶ないじめを受けた30代女性。いじめのトラウマで人が怖くなり、10年以上ひきこもった。その苦しさを家族にも理解してもらえず、死の一歩手前まで追い詰められた女性を救ってくれたものとは――。女性が生きる希望を取り戻すまでを追った。(前後編の前編) 【画像】「一番心にダメージが来たのは無視されることでした」という白石さん
厳しい母に叩かれて育つ
白石咲良さん(仮名・30代)の母親はとても厳しい人だった。保険会社勤務の父親は転勤族で、幼いころは社宅で暮らしていた。周囲は教育熱心な家庭が多く、白石さんは母親にしょっちゅう怒られていたという。 「みんなはいい子なのに、あなたはなんで同じようにできないの?」 白石さんは活発でやんちゃなタイプ。片付けや勉強をしないで遊びに行こうとすると、押し入れに閉じ込められたり、ベランダに放り出された。 「とにかく勉強して、いい大学に行って、いい企業に入れと。テストの点数が悪かったりすると、蹴られたり叩かれたりしてましたね。ピアノも習わせてもらっていたけど、1日2時間以上練習しないと叱責の嵐で、うまく弾けないと、めっちゃ手を叩かれましたね。 今風に言うと、ちょっと虐待入ってた感じですけど、母も祖母にほうきで叩かれて育ったので、厳しく育てるのが当たり前だと思っていたみたいですね」 小学校では友達がほとんどできなかった。転校が多かったこともあるが、母親が洋服など見た目を構ってくれなかったことも大きいという。いつも着せられていたのは男の子向けのトレーナーとズボンだ。 「3歳下の弟にお下がりできるようにって。しかも、お腹壊すからって、トレーナーの裾をズボンにインさせられて。見た目に関しては切なかったですね。顔も水疱瘡の跡がすごかったんで、あだ名はクレーター。私はけっこう生意気で、ガキ大将にも『バーカ!』とか言い返しちゃったんで、よく追いかけられて殴られてました」
ばい菌認定され、ひどいいじめに
小学校卒業と同時に転居。知っている生徒が一人もいない中学に入学すると、なじむ前にいじめが始まった。 トイレ掃除中にホースでバシャーっと水をかけられたり、男子に囲まれて押し倒されたり、コンパスの針で後ろからブスブス刺されたり、着替え中にカーテンを開けられたり、下敷きなど文房具に油性ペンで落書きされたり……。 「アトピーで全身の肌がかゆかったので、頭もかきむしっちゃってたから、フケがすごくて。制服のブレザーにつくと目立つので、自分でも気になって取ってたけど、髪もボサボサだったし、“ばい菌”認定されちゃって…。けど、一番心にダメージが来たのは、誰も口をきいてくれなくて無視されることでしたね」 両親に言うと父親が学校に電話をしてくれた。だが、その次の日に登校すると、「告げ口したな」と言われ、さらにいじめが激化――。 母親は励ますつもりだったのか、強い口調でこう叱責してきた。 「お母さんもいじめを受けていたし、いじめられるのは普通だから、なんで頑張れないの?もっと成績上げたら、人気者になれるんじゃないの?」 無視されるいじめが一番キツイと母親に相談したら、なぜか白石さんのことを無視して弟にだけ話しかけ始めたという。 「なんで母がそんなことをしたのか、よくわかんないんですけど、それで、ホントに私、1人ぼっちがダメになっちゃって。同じ学年のよく知らない人にもいじめられて、私は誰にも好かれないし、すべての人を不愉快にさせる存在なんだ。人は怖くて、会えば害を加えてくる生き物なんだと思うようになりましたね」 学校を休むことは許してもらえず、白石さんは毎朝、祖父母がくれたお守りを握りしめて、「今日はいじめが軽くなりますように」とブツブツ唱えながら登校した。 唯一の救いは部活だった。白石さんは音楽が好きで吹奏楽部に入りトロンボーンを吹いていた。顧問の教師がいじめを許さなかったので、その時間だけは楽しめたという。