ガンダム最新作、脚本参加の庵野秀明とガンダムの関係は? 読んでおくべき『逆シャア本』での焦燥と鬱屈
■サンライズとスタジオカラーがタッグ ガンダムシリーズの最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』が発表された。すでにネット上でも大きな話題となっているのが、その制作体制。もともとガンダムシリーズを手掛けていたサンライズと、『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズで知られるスタジオカラーがタッグを組んで制作にあたるという。 【写真】今の季節に着たくなる『機動戦士ガンダムUC』と人気ミリタリーブランドとのコラボがかっこいい! 主要スタッフもスタジオカラー系で占められており、監督は『ふしぎの海のナディア』からガイナックスにて活動し、現在はスタジオカラーに所属する鶴巻和哉。メカニカルデザインを山下いくとが担当し、前田真宏、松原秀典といった『エヴァンゲリオン』シリーズに関わったスタッフもデザインワークスに名を連ねている(このデザインワークスのスタッフ陣の豪華さも凄まじい)。 脚本は『フリクリ』『トップをねらえ2!』といった鶴巻監督作品に参加してきた榎戸洋司が担当。そしてもう一人、庵野秀明が脚本として参加することが発表されている。近年はゴジラやウルトラマン、仮面ライダーといった有名特撮作品のリメイクに関わることの多かった庵野監督が、とうとうガンダムシリーズの新作にコアなスタッフとして関わるのである。 前述のように、近年の活躍は主に実写・特撮作品にシフトしていた庵野秀明だが、ガンダムについても様々な媒体で発言している。1990年代初頭、『ふしぎの海のナディア』などを手掛けていたころには『アニメージュ』でたびたびガンダムに関するインタビューに答えており、『機動戦士ガンダムF91』に絡めて富野由悠季監督について語っている。 ■庵野秀明とガンダム また、庵野秀明とガンダムに関して言えば、最も重要な出版物が1993年に刊行された『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会(以下『逆シャア本』)』だろう。これは同人誌として制作されたものながら、その内容の濃厚さから長らく伝説の同人誌として語られていたルポルタージュ集である。責任編集は庵野秀明本人であり、この同人誌の制作には相当入れ込んでいたという まず改めて見ると、インタビュイーと執筆陣の豪華さに驚かされる。富野監督本人はもとより、押井守、鈴木敏夫、幾原邦彦、出渕裕、ゆうきまさみ、あさりよしとお、山賀博之などなど、そうそうたるメンバーが『逆襲のシャア』という作品を語り倒しており、今読んでも彼らの発言の的確さ、批評の鋭さには唸るばかりである。 そしてもうひとつ重要な点が、庵野秀明が抱えるアニメとそれを取り巻く状況・人々への違和感と怒りがこの同人誌を成立させたという点だ。三島由紀夫の引用を散りばめつつ庵野本人が書いた『逆シャア本』の巻頭言は、怒りに満ちている。ネタ切れ気味で安直な企画ばかりが通り、スポンサーはリスクを取ることを極端に避け、スタッフは低きに流れるばかり。いわゆるアニメファンも意識が低く、このままではアニメという産業は消えてなくなるのではないか……。巻頭言にはそんな焦燥と鬱屈が詰め込まれており、その気持ちが庵野を『逆襲のシャア』を有識者によって徹底的に分析し総括するという『逆シャア本』の制作に向かわせた。 ではなぜ『逆シャア』だったのかと言えば、理由は単純。1993年ごろ、『逆シャア』は全く振り返られていない作品だったのだ。バブル期の前後、すでに世間やアニメファンの興味はリアルロボットもののアニメからは離れており、ガンダムシリーズの主力商品はSDガンダムへと移っていた。ガンダムを制作していたサンライズのロボットアニメも、1988年の『魔神英雄伝ワタル』以降はデフォルメされたコミカルなロボットものへとシフトしており、シリアスな戦争を扱ったロボットアニメには逆風が吹いていた時期だった。そんな中、公開から数年で『逆シャア』はほぼ忘れられた作品となっていたのである。今では考えられない状況だ。 そんな忘れられた傑作の価値をもう一度検証し、世間に対して知らしめることは、庵野秀明にとって『逆シャア本』の大きな目的だったはずだ。そしてこの同人誌の編集・執筆の中でかろうじて萎えた感情を奮い立たせたことが、のちに『新世紀エヴァンゲリオン』へとつながっていく。この本がなければエヴァもなかった、という歴史的な一冊なのである。長らく幻の同人誌されていたこの本が株式会社カラーによって復刻され、誰でも読める状態になっていることは、まさに大英断といっていい。 では、庵野秀明本人がより直接的にガンダムシリーズについて言及した例はないのだろうか。これに関しては、1989年にバンダイから発行された『B-CLUB ビジュアルコミック 機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 Vol.2』がある。この本は『0080』のOVAが展開されていた当時に刊行されたもので、『0080』のストーリー紹介や設定資料、スタッフのインタビューなどに加えて、当時バンダイから刊行されていた模型雑誌『B-CLUB』の周辺で活躍していた漫画家・イラストレーター・アニメーターらのコミック・小説・イラストが収録されている。 この『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 Vol.2』には、庵野秀明が描いた見開きのイラストおよびテキストが収録されている。そこでは「ガンダムでリアル志向になったロボットものは、ロボットがいてもあたりまえの世界を描けるようになり、『0080』の5話でとうとうロボットの戦いが出なくてもよくなった」という点が指摘されており、それを「すごい」こととして称賛している。 その一方で庵野は、「このまま進んでもリアル志向の袋小路に入っていくだけだから、ロボットヒーローものの原点に戻ってほしい」とも指摘している。ガンダムシリーズが『Vガンダム』で方針転換を迫られ、プロレスや武侠小説のテイストを大きく取り入れた破天荒な『Gガンダム』へとつながっていく未来を暗示するような指摘である。 また、添えられたイラストでは「下半身を攻撃されるも、コアファイターと接続された上半身を切り離して戦うガンダム(ガンダムも合体メカなんだから、分離してAパーツだけで戦うシーンがほしかった、というコメント付き)」が描かれている。このイラストの内容は、Vガンダムの戦闘シーンほぼそのまんまと言っていい。90年代ガンダムの行く末を1989年の時点で鋭く言い当てているあたり、さすがと言うほかない。 もちろん『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』は鶴巻監督の作品であり、内容に関する決定は鶴巻監督自身が行なっているのは間違いないだろう。しかし、過去にこれだけガンダムシリーズに強いこだわりを見せ、そして数年後のシリーズ作品の方向性を言い当てていた庵野秀明がどのような脚本を仕上げてくるのかにも期待したい。それはきっと、ガンダムシリーズのみならず、今後のロボットアニメの行方を占うような内容となるはずだ。ガンダムシリーズのテイストを汲みつつ、「ロボットヒーローものの原点」に帰った作品となるのかどうか、大いに楽しみである。
松山重信