戦力外の30歳右腕「1回死んだ」 育成入団で掴んだ“居場所”…「何も背負わなくていい」
オリックス・井口和朋「もう、1回死んだので、何も背負わなくてもいいです」
過酷な試練が、起死回生のチャンスを与えてくれた。昨オフ、日本ハムから戦力外通告を受け、12球団合同トライアウトを経てオリックスに育成契約で入団した井口和朋投手が、新天地での充実した日々を振り返った。「トライアウトから始まった1年。オリックスに声をかけてもらって、そこから休みなく走ったようなイメージです。新鮮で、今までで1番長いシーズンでした」。30歳右腕が、新人のように声を弾ませた。 【写真】胸元も露わなドレス姿…戦力外男とセレブ女優の“格差婚”に大混乱 幸せそうな2ショット 井口は神奈川・武相高、東農大北海道オホーツクを経て2015年ドラフト3位で日本ハムに入団。救援で躍動し、2021年にはキャリアハイの43試合に登板。防御率1.86とブルペン陣を支えた。しかし、2022年は23試合で防御率5.18と低迷、昨季は5試合登板にとどまり、昨年10月3日に戦力外通告を受けて日本ハムを退団。トライアウトを受け、オリックスに育成選手として入団した。 オリックスではキャンプ、オープン戦を通じて豊富な経験をアピールし、開幕3日前に支配下選手に昇格。腰を痛め2軍で調整した時期もあったが、32試合に登板し1勝2敗3ホールドと中継ぎで存在感を示した。 「チームが変わり、それまで敵として戦ってきたチームの選手と一緒にやるというのは、すごく刺激的でした」という言葉は、真面目な性格の井口らしいコメント。新しい環境が「新たな自分」を作ってくれたともいう。「ブルペンの中で年齢も上の方になったので、自分の言動を見直しました。自分のことだけを考えるのではなく、どうやったらチームの力になれるかと。ファイターズにいた時より、周りを見てチームのことを第一に考えるということをすごく意識した1年でした」。 もちろん、日本ハム時代に自分勝手な言動をしてきたわけではないが「何を求められているのかを考えました。自分がこれをやりたい、だけじゃチームにははまらないので。何をやればチームが円滑にいくかを考えていました」と意識の変化を語る。 「ファイターズの時は、自分の中に入り込んでしまう部分がありました。僕は特にそっちになりやすいので、今年は一歩引いてじゃないですが、視野を広くと意識してやったので、そこは自分の中でも成長したんじゃないかと思います」。井口の何気ない一言からブルペン陣の合言葉になった「ワンチーム」も、そうした気持ちが表れたものだった。 すべては戦力外になったことから始まった。「トライアウトを受けてもう1度、チャンスをもらえて。もう、1回死んだので、何も背負わなくてもいいですし。クビになってよかったと思います」。今季の自己採点は「70点」。30点は、自らの可能性とたゆまぬ努力を忘れないためにも残しておく。
北野正樹 / Masaki Kitano