新型ロールス・ロイス ゴースト シリーズⅡの“変化”はすごかった 超高級車の知られざる新しい世界観に迫る
あらゆる席が極上仕様
インテリアに乗り込むと、上質なレザーを使ったシートと分厚いフロアカーペットが目に入る。モータージャーナリスト小川の運転で、リヤシートに身を委ね、Cピラーに備わるスイッチを押し、逆開きのリヤドアを静々と閉めた。 走り出しから、思わず「これは素晴らしい!」と、唸った。” マジックカーペットライド“と謳う乗り心地は、その言葉どおりで、大小さまざまな凹凸をきれいに慣らしていくかのようだ。厚みのあるシート、カーペットと相まって身体に振動はほとんど伝わらない。実に快適だ。 ちなみに筆者は、動く車内でノートパソコンのタイピングをすると早々に車酔いに襲われるが、ゴーストでは皆無。しばし、仕事に打ち込めたほど極上の乗り心地だった。 ブドウ畑や美しい建物、オブジェを眺めながらいざ郊外路へ。いくつものカーブが続く道でも、ゴースト・シリーズⅡは大きく揺さぶられることなく進む。電子制御式の「プラナー・サスペンション・システム」や、カメラで前方の道路を読み取り、路面の変化に合わせてサスペンション制御を可変する「フラッグベアラー・システム」、GPSデータをもとにカーブの曲率に応じた最適なギヤを選択する「サテライト・エイデッド・トランスミッション」などが実に良い仕事をし、まるで大型客船の如くゆったりと進む。 静粛性はかなり高い。リヤシートに座っていると速度感がわからず、100km/hでも50km/hくらいに感じた。車窓を流れる景色のスピードで、初めて100km/hであることを実感。同乗者との会話が、弾むのも納得だ。50km/hでも100km/hでも声量は屋内と変わらずに済む。 自分が運転する番がまわってきた。フロントシートに座ると、メーターパネルおよびインフォテインメント用モニターの変化に気がつく。新しい「SPIRITオペレーティング・システム」搭載によって、ソフトウェアもアップデート。メーターカラーなどをオーナーの好みに変えられるという。 さらにインパネのアナログクロックには、「スピリット・オブ・エクスタシー」が置かれた。これは、フロントに鎮座するスピリット・オブ・エクスタシー(ボンネット・マスコット)と同じデザイン、材質というこだわり。しかも、LEDの照射角度なども徹底的にこだわることで、小さくても、実に立派に見える。このスピリット・オブ・エクスタシーがあるとないとでは、インパネまわりのイメージが大きく異なるし、シリーズⅡにアップデートされたことを主張する。 いざ、走りはじめると1600rpmで最大トルク850Nmを得られるだけあって、ほとんどアクセルを踏まずとも優雅に走らせられる。今回はオートルート(フランスの高速道路)の走行がなく、ひたすら一般道を走らせたため571psの最高出力を味わい尽くすことはなかった。もっとも、ロールス・ロイスのオーナーが峠を攻めるシーンなどはあまりないと思われるので、南仏の郊外路をのんびり走らせる方が、実際の使い方としては正しいと思う。 いまや希少なV型12気筒エンジンは驚くほど滑らかで静か。はるか前方にエンジンがあるかのようだ。12気筒はフェラーリやアストンマーティンといったスーパーカーメーカーぐらいしか採用しないが、こうしてゴースト・シリーズⅡで味わうと、「ラグジュアリカーはV12に限るなぁ……」と、ため息が漏れる。 新型ゴースト・シリーズⅡは、記憶にあるシリーズⅠと比べ内外装のみならず、走行性能もより洗練された印象を受けた。 が、ロールス・ロイスによれば足まわりやパワートレインは、以前のままという。「本当に手が加えられていないんですか?」との問いに「イエス」と一言。 シリーズⅡに進化し、熟成が進んだことによるバランスの変化を感じたのだろう。既存ユーザーにはぜひその違いを感じ取ってほしい。個人的に、今回の変化は実にポジティブ。まさに”進化“という言葉がぴったりだった。
文と編集・稲垣邦康(GQ)