八王子城下の歴史を巡る旅 後北条氏・武田氏・徳川氏の運命が絡み合う街の魅力とは
ヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」の兄・Mummy-Dと、「MELLOW YELLOW(メローイエロー)」の弟・KOHEI JAPAN。2人は共に音楽シーンで活躍する一方で、大の歴史好き。今回は、歴史と音楽を愛する2人が東京・八王子市を歴史探検します。 ■2023年歴史人流「裏大河紀行」もいよいよ最後! 舞台は数奇な運命を抱える八王子 (by Mummy-D) 2023年の大河ドラマ『どうする家康』も今頃遂に大団円を迎えていることでしょう。「人の一生は重き荷を負うて遠き道を行くがごとし」。いやあ、我々の連載もこの一年家康公と共に歩んで来た感あり(←大袈裟)実に感慨深い師走ではあります……遠い目。 さて、そんな我々が今回選んだロケ地は、八王子。あのユーミンさんやヒロミさんを生んだ、言わずと知れた東京西郊のビッグシティーであります。そこが何故神君、東照大権現とリンクするのか? 八王子には確か八王子城があったよね? 八王子城は小田原北条氏の支城で、確か城主は北条氏照(うじてる)じゃなかったっけ? え? それってこの春連載第2回、小田原編でお墓に手を合わせた、あの氏政公の弟君の? なんまんだぶなんまんだぶ……。小田原征伐での落城の後、この町はどう発展していったのでしょうか? 興味津々で我々遠い目探検隊は、ある晴れた秋のお昼時、JR八王子駅改札に集合したのでした。 ■北条の支城・八王子城址で苛烈な戦国の世の名残に触れる (by Mummy-D) レンタカーを借りて、ほとんどピクニック気分で八王子城址に向かう坂間兄弟+編集部。西八王子、高尾と駅に沿って進み、都道をそれると、おそらくこれは古道で城へのメインストリートといった風格。居並ぶ家臣団の屋敷など想像しつつ、左右に山も迫ってきて、いよいよ期待が高まります。ところどころささやかながら「うじてるくん」のキャラクターイラストあり。控えめなところがまた北条っぽくてイイ! その道の行き着くところに、関東屈指の名山城は、堂々としかし静謐(せいひつ)に、存在しておりました。 実はわたくし歴史人になりたての今から20年ほど前、ドライブ中に「いいところがあるよ」と彼女を騙して、ここに来たことがあったのですが(笑)、入口付近や駐車場など、当時よりだいぶ整備された印象。管理棟の親切なガイドのおじさんにマップなどいただきながら、とりあえず御主殿(ごしゅでん)方向を目指します。 深い森の中を屈曲する古道に沿って歩いて行くと、いよいよ見えてまいりました、御主殿曲輪(くるわ)の威容が! 曳橋から虎口へカクカクとそそり立つ石垣、石段。まさしくここが八王子城跡の顔っすね! こんな山中によくもこれほどまでの城郭を構えたものです。それが落城後もこうして整備され残っているのだから、当時の土木技術がどれほど進んでいたか、頭が下がる思いを胸に、遠い目。 御主殿曲輪は広々としていて、発掘、埋め戻し、礎石(そせき)の復元的整備が進んでるけど、20年前は本当にただの原っぱだった気がするなあ、なあんもない。それが歴史初心者にはミョーにリアルに感じられたものだった。「ここにあったのに! 確かにここにあったのに!」そこに華やかな建築物など残っていなくても逆に「遠い目」できるようになったのは、今思えば、ここが原体験なのかもしれない。そこがシラケた空間であればあるほど、往時の宴のどんちゃん騒ぎが聞こえてくるような……病院行ったほうがいいですかね?(笑) 御主殿曲輪の脇には、落城時の悲劇の舞台となった「御主殿の滝」が、今も往時のままに(この日は枯れてましたけど)あります。落城時には城主氏照公は小田原で籠城中、不在であったのですが、抵抗虚しく滝の上流で自刃した家臣やその婦女子の血で、川は三日三晩赤く染まったと言い伝えられています。 多分に講談的装飾も入っているとは言え、ここでたくさんの人々が亡くなったのは紛れもない事実。自然と碑に向かって手を合わせましたが、ここだけライターさんの撮った写真に不思議な光が……。そこに蝶々がひらひらと…。御主殿曲輪にやたら飛んでいたこのチョウ、アサギマダラといって1000kmも移動する「渡り蝶」なんです。しかも接写しても全然逃げないの! 何か僕らに伝えたいことがあるような気がして、史跡そっちのけでチョウの写真ばっかり撮っちゃいました。 スタート地点に戻り、この後本丸を目指すか八王子市内の旧跡を中心に取材するか話し合う。え?本丸行かないで帰るの?『歴史人』今月号特集「戦国の山城大全」なのに?そりゃ行くっしょ!よっしゃあ!八王子城がなんぼのもんじゃいー!…オレ的にはこんな特集を組みつ本丸登頂に尻込みしている編集部一部スタッフに衝撃を受けたが(笑)、さもありなん、この後大変なエクササイズが待っているとは、この時の我等は知る由もなかった。