【肥満が原因の糖尿病治療】近年、保険適用となった2つの「腹腔鏡を用いた減量手術」を解説 ホルモン分泌にも影響し糖尿病改善に効果を発揮【専門医が解説】
もう1つの減量手術「腹腔鏡下スリーブ・バイパス術」は、2007年に私が術式を開発し、2018年に先進医療となり、2024年にようやく保険適用となりました。開発から保険適応まで、実に17年の歳月がかかったわけです。 この治療は欧米で一般的な胃バイパス術と同様に、食物が十二指腸を通らないように迂回するのが特徴です。まず胃をスリーブ状切除で細くし、十二指腸を切り離して小腸に繋ぐため、十二指腸と小腸の一部をバイパスしている状態になります。胃バイパス術と異なり、残った胃の内視鏡検査も可能です。 腹腔鏡下スリーブ・バイパス術は、糖尿病に対し高い効果を発揮します。手術によって十二指腸を食物が通らなくなることで、様々なホルモン分泌に影響を与えることがわかっています。詳細なメカニズムについては研究中ですが、現在、以下の効果が判明しています。 【1】消化管ホルモンGLP-1の分泌が増加する 【2】胆汁酸が短いサイクルで取り込まれるため、胆汁酸の血中濃度が増加する 【3】腸内細菌のバランスが整う 【4】迷走神経のバランスが整うことによりインスリン分泌が増加し、インスリン抵抗性も減少、糖尿病が改善する 腹腔鏡による手術のため、傷の大きさは最大で1.5センチほどで、開腹手術に比べて身体への負担はかなり少ないです。入院も腹腔鏡下スリーブ状胃切除術で3泊4日、腹腔鏡下スリーブ・バイパス術で4泊5日と短かく、術後の合併症は嘔吐や貧血、胸やけ、縫合不全など、少数報告されている程度です。なお、BMI50を超える高度肥満の場合は十分な体重減少効果がみられないこともあり、腹腔鏡を用いないスリーブ・バイパス術が推奨されます。 減量手術を受けると体重は減少しますが、時間が経つにしたがって徐々に食べられるようになります。高度肥満の方は、「食欲がなくても、何となく食べてしまう」「ストレスがかかると食べてしまう」という「心理的食習慣」を持つ場合が多いので、術後のケアが重要になります。食生活改善や生活習慣指導、心理的対策をしっかりしないと、せっかく減量手術をしてもリバウンドの可能性があるからです。
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