ワトソン容疑者なぜ保釈 デンマークの「超法規的対応」要求、「原則曲げぬ」と日本が拒否
日本の調査捕鯨船の妨害活動に関与したとして海上保安庁が国際手配した反捕鯨団体「シー・シェパード」創設者、ポール・ワトソン容疑者(74)が、勾留先のデンマークで保釈された。「このような結果となり残念だ」。海保の瀬口良夫長官は18日の会見でこう述べた。日本側が求めた身柄引き渡しは、なぜ実現しなかったのか。 ■異例の勾留5カ月、延長6回 ワトソン容疑者保釈の一報が海保に入ったのは17日午後。海保側は今年7月にデンマーク自治領グリーンランドで容疑者が拘束されて以降、日本への具体的な移送計画を作り、受け入れ準備を進めてきた。「勾留期間の長さを考えれば、7対3の割合で身柄が引き渡される」。海保関係者はこう踏んでいたという。 ワトソン容疑者の勾留は約5カ月に及び、6回の延長手続きを繰り返す異例の対応だった。海保側は外務省を窓口に、引き渡しの可否を決めかねるデンマーク司法省に揺さぶりをかけた。 この間、フランスなど反捕鯨国を中心にワトソン容疑者の早期釈放を求める動きが広がった。マクロン仏大統領は日本への引き渡しに反対の考えを示し、「デンマーク側に働き掛ける」との声明を発表。ワトソン容疑者も仏国籍取得や政治亡命を申請し日本への移送回避を画策した。 反捕鯨国の圧力が強まる中、海保は9月下旬、事態打開に捜査部門トップをデンマークに派遣。「捕鯨の是非」という立場の違いを超え、法と証拠に基づく、引き渡しの正当性を主張した。 ■「超法規的対応」を拒否 デンマーク側からは容疑者が高齢であることや容疑の対象行為が14年前と古いことなどを理由に色よい返事はなかったが、その後、外交ルートを通じ、一つの「妥協案」が示された。判決確定までに刑事施設で身柄を拘束する「未決勾留」の期間を刑期から差し引くよう日本側に求めた。 ただ、日本の刑法は、海外での未決勾留日数を刑期に算入することを認めていない。いわば「超法規な対応」を日本側に求めたことになるが、政府関係者によれば、法務省と協議した結果、法の原則を曲げることはできないとの結論に至り、デンマーク側の要請には応じなかったという。 ワトソン容疑者の勾留先だったグリーンランドは先住民による捕鯨が認められている。ただ、本土のデンマーク政府は反捕鯨の立場を取る。こうした立場の違いが、保釈を決定した背景にあった可能性もある。
「政治的動機による冤罪(えんざい)だった」。ワトソン容疑者は保釈後、SNSでメッセージを発信した。海外メディアなどによれば、保釈後は家族が暮らすフランスに移住するとみられ、同国で滞在を続ける限り、引き渡しが実現する可能性は低い。一方、海保側にすれば千載一遇のチャンスを逃したに等しい。「無念というほかない」。海保幹部は言葉少なだった。(白岩賢太)