「コロナ対策緩和」「気候変動」で動き出した世界の感染症
新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の流行が落ち着きをみせるなか、今年(2023年)は世界各地で新型コロナ以外の感染症に大きな動きがみられています。たとえば、日本でインフルエンザが秋から流行していることや、中国でマイコプラズマによる小児の肺炎が増加していることなどが挙げられます。さらにイタリアやフランスでは、本来熱帯の病気であるデング熱の患者が続発しています。こうした感染症流行の原因には新型コロナの影響もありますが、昨今の気候変動も関係しているようです。今回は世界でみられている感染症全体の新たな動きを解説します。【東京医科大学病院渡航者医療センター部長・濱田篤郎/メディカルノートNEWS & JOURNAL】
◇中国で小児の肺炎患者が急増
世界保健機関(WHO)は11月末、中国北部を中心に小児の間で肺炎患者が急増していることを発表し、中国政府にその原因についての報告を求めました。その後、中国の保健当局は、肺炎の原因が新たな病原体ではなく、マイコプラズマなど既知の病原体であることを明らかにしました。マイコプラズマは細菌の一種で、肺炎などの呼吸器感染を起こすことが知られています。 では、なぜこの時期に小児の肺炎が流行したのでしょうか。この原因として、昨年まで中国では新型コロナに対する徹底した感染対策が取られ、新型コロナ以外の呼吸器感染症の流行も抑え込んだためと考えられています。この結果、マイコプラズマなどへの免疫が低下し、感染対策の緩和後に大きな流行が生じたのです。大人は過去に感染して免疫を持っている人もいますが、子どもはこの影響をまともに受けてしまったようです。
◇インフルエンザの早期流行
新型コロナへの感染対策の緩和後に、新型コロナ以外の呼吸器感染症が再燃するという現象はインフルエンザでもみられています。日本では2020年秋以降の2シーズンにわたりインフルエンザの流行はありませんでしたが、今年5月の対策緩和後は、夏でもインフルエンザの患者が散発し、それが秋以降の早期流行につながりました。中国でも今年はインフルエンザの早期流行が発生しており、小児の肺炎患者の中にはインフルエンザに関連した患者も多いようです。 日本では咽頭結膜熱(プール熱)の患者も夏頃から急増しています。この感染症も飛沫感染や接触感染で拡大するもので、新型コロナ流行中は患者数が大幅に減っていましたが、対策緩和後に急増してきました。 新型コロナが猛威を奮っていた時期に、私たちはマスク着用や手洗いなどの感染対策を強化し、新型コロナだけでなく呼吸器感染症全体の流行を抑えることができました。しかし、この間にそれぞれの病原体への免疫が低下し、対策を緩和した後に流行が拡大したというのが現状なのです。