『虎に翼』のクオリティを担保した“画面演出” 随所に見られた映像的な工夫を振り返る
第21週「貞女は二夫に見えず?」第102話/演出:酒井悠
この週では、寅子の星航一(岡田将生)との再婚と夫婦別姓のエピソードが展開する。同時に、轟(戸塚純貴)が同性愛者であることを知った寅子がジェンダーマイノリティの人々と交流するエピソードが挿入される。この週の白眉は、火曜日のこのシーンだろう。月曜日のエピソードで、寅子が結婚の自由のない轟たちの前で、姓を変えてまで結婚する意義が見いだせないと不用意に発言してしまったことを謝罪に来る。改めて2人は向かい合って話し合うことになるが、ここでもセリフ以上に背景によって雄弁に語らせるような演出が見られる。 ほぼアイレベル(目線の高さのカメラポジション)で向かい合う寅子と轟を捉えたこのショット。二人の構図には偏りはないが、背景の日本国憲法14条の位置が寅子の方に偏っている。ここで交わされる会話はこうだ。脚本も参考にして抜粋する。 轟「最初は、限られた場所でも、時雄さんといられればそれだけで本当に良かった……でも」 轟、壁の憲法十四条の所に歩んでいき 轟「この先の人生、お互いを支え合える保障が法的にない。俺らが死ねば、俺らの関係は世の中からなかったことになる」 上記のショットは、轟が立ち上がって壁に向かう前に挿入される。憲法十四条は法の下の平等を謳っているが、現実には同性愛者の権利が保障されていない。だから、異性愛者の寅子の方に偏り、轟に憲法十四条の条文が触れていないのだろう。文字だけでは言い表せない不平等を壁の憲法条文を用いて視覚的に強調したショットと言える。 このシーンは壁の憲法条文を偏らせるために、机の位置をずらしていると思われる。24週の似たような構図を比較すると、憲法条文と机の位置が微妙に異なっているように見える。
第22週「女房に惚れてお家繁盛?」第109話/演出:橋本万葉
この週では、寅子と優未(毎田暖乃)が星家の面々と馴染んでいく様子を描く。星家の長男・朋一(井上祐貴)と長女・のどか(尾碕真花)が寅子たちをなかなか受け入れられないでいるが、徐々に円満な絆を築き始める。だが、朋一とのどかそれぞれが同時に寅子たちに心を開くわけではない。木曜日、朋一が寅子たちと打ち解けるのが以下の場面だ。 新たに家族となったもの同士の距離が縮まる心温まるシーンだが、何かが欠けている不穏さが残る。表面上、ここで交わされる会話は、ぎこちなかった両家の雪解けを感じさせるものだが、のどかがいないのだ。その不在を印象づけるために、一つ椅子が空いている。寅子は椅子に腰掛けずにわざわざ床に座っているのもあって、不在の椅子が強調される。 このシーンの脚本でも、特に椅子の指定はされていない。脚本では、会話とともにト書きで「穏やかな空気が流れる」とあり、次のシーンでのどかが一人で階段から家族を冷ややかに見るというシーンが挿入される構成になっている。実際の映像では、のどかが階段から馴染んでいく家族の会話を密かに聞いているという構成へと変わっている。 空いた椅子によって強調される不在が、円満な家庭に向かっているにもかかわらず、何かが足りず不穏な雰囲気を上手く作り出している。脚本の構成と物語の展開を考えた上で、まだここで家族の物語は解決していないということを視覚的に見せて、次の展開へとつなげる演出として機能していて上手い。