「キャリアの山をもう1回作りたい」「来年にだって辞めるぐらいの覚悟はある」サッカーノートを記し続ける稲垣祥の決意【インタビュー3】
常に書き記しているのは
どんな時でも成長できるチャンスを探し、前に進み続ける。その稲垣の姿勢は彼のサッカーノートやメモにも表われている。 「学生時代からノートを書いていて、今はスマホのメモ帳を活用しています。誰かに言われた一言や、本などを読んで頭に残ってる言葉、そしてピッチの上での大切な現象や、その現象への対処法など、勉強になることはメモをするようにしています。読み返す時もありますし、ただかなりの量にもなっているので(笑)。 でも、悩んだりした時に、自分がこれまで書いてきた言葉のなかに、解決法がすでにあったりするんですよね。『あ、このパターンだ』みたいに。だからそういう意味では大切なメモですね。 それこそ、こういう見方もあるんだとか、様々な角度からの物事の捉え方を残すようにしています。自分が物事を見る角度ってすでに把握できているじゃないですか。だからこそ別の角度を取り入れ、幅広い視点を持てるように取り組んでいます」 プロ11年目の32歳。それでも向上心が衰えることはない。それは自分だけのサッカー人生ではないと理解する、稲垣の責任感の強さを示しているとも言えるだろう。 「キャリアの山をもう1回、もう1個作りたいと最近考えています。まあ、普通にいったらこの年になって、ちょっとずつ衰え、何年後かに引退する、っていうのが一般的なイメージだと思うんです。でも、自分のなかでは、もうひとつ山を作れるなっていう感覚や自信がある。もちろん今のままじゃいけないんですけど、もうひとつ成長して、自分のキャリアのピークを作りたいですね。そこがひとつの大きな目標とチャレンジです」 そのなかにはすべての選手がいつかは迎える引退への考え方も含んでいる。 「何歳までやりたいとかは本当にないんですよ。ただ、自分のパフォーマンスが出せてないなとか、チームに貢献できていないって思ったら、僕は来年にでも辞めるぐらいの覚悟は持っている。だからしがみついてでも1年でも長くとは考えていなくて、自分が納得できなくなったらスパっと辞める気持ちはあります」 なんとも稲垣らしい考え方だ。そのための努力は決して怠らず1日1日を大切に過ごすなか、改めて周囲の支えに感謝するのも彼らしい。 「もちろんアスリートとしてこだわっていることは、ひとつじゃなくいくつもあるんですけど、それって普通って言えば普通じゃないですか。そういう意味では、細部へのこだわり、怠らずにやり続ける力につながった自分の性格は、ひとつ大きいのかなとは思いますかね。 こだわりが苦しくなること? 自分のなかではすでに生活の一部なので。強いて言えば自分の基準を押しつけてしまっている妻が一番大変だろうなとは感じます(笑)。 食事も、睡眠も、やっぱりアスリートは異なる面があるじゃないですか。僕は寝るのは早いし、時間も長いし、昼寝もするし。本来、子育てが大変な時に、昼寝って何してんだっていう感じじゃないですか。食事も色々考えながら作ってくれている。そのなかで僕は何不自由なくコンディションを保たせてもらっているのは本当に感謝ですよ。結婚してから自分のギアはさらに上がったと感じています」 では最後に聞いてみた。稲垣祥にとって努力とは。 「それは、それぞれの人が持っている物差し次第で変わるんじゃないですかね。それこそ、日々のコンディションや自己管理っていうのは、僕にとっては努力にはならないんですよ。それが普通のこと、それは日常だから。でも、例えば、僕が料理に打ち込もうとした時に色々学んだりすることは努力と感じると思う。そういう物差しをどう持っているかで努力の意味合いは変わってくるなって思いますね」 物事を考え、周囲の想いを感じ取り、人を慮り、不断の努力を続ける。かつてプロにはなれないと言われた少年は、そうやって一歩ずつ進んできた。その歩みはきっと多くの人たちの指標になるに違いない。 稲垣祥が示している道は、貴重で機知に富んでいる。 ■プロフィール いながき・しょう/91年12月25日生まれ、東京都出身。176・72㌔。大泉西ハリケーン―サウスユーベFC―FC東京U-15むさし-帝京高-日本体育大-甲府-広島-名古屋。J1通算317試合・35得点。日本代表通算1試合・2得点。名古屋の不可欠なボランチ。 取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)