【フィギュア】羽生結弦「RE_PRAY」で見せたプロの仕事 なぜ、彼はこんなにもストイックになれるのか?
魂を全て注ぎ込む、その先には
競技という枠を飛び出し、プロスケーターになってなお、なぜこんなにもストイックに追い込み、自らを高めることに妥協がないのか。源泉となっているものは何か――。 その答えの一つが、入手困難とされるチケットを求め、会場の内外からでも絶えず応援をしてくれるファンの存在だった。 会場のマイクパフォーマンスで羽生さんはこう話している。 「皆さんが観たいと思ってくださるから、僕はこうやって滑らせていただいて、皆さんが集まってくださるからこそ、僕は頑張ることができます。皆さんの中には、もしかしたら今回しか来られない人もいるかもしれない。だからこそ、僕自身も毎回、演技をしているとき、いつ終わってもいいと思えるくらい、魂を置いて滑っています。 毎回、魂をぶちこんでいます。なので、一粒の砂くらいでもいいので、きょうの感情がなにかしら、皆さんの中に残ってくれたらいいなあと思っています」 29年の人生のほぼ全てをフィギュアスケートに注ぎ、打ち込んできた。競技者であっても、プロに転向しても、常に高みを目指す自分と向き合ってきた。 自らの演技を楽しみにしてくれる観客に、想像以上の期待で応えるために、華やかな舞台とは対照的な日々のリンクで自らを追い込む。そこに一切の妥協はない。
本番ではその全てを出し切ってなお、自らの魂を注ぎ込む。だからこそ、スタミナが切れて、息が苦しくなる。ぜんそくの持病があるのに、お構いなしに削りきったスタミナをさらに絞り出して、滑り続ける。〝一期一会〟の会場で、最高のパフォーマンスを見せるためだ。
「オリンピックを超えた」
この日も、「見てくださる方々が、本当にうれしそうな顔をしてくださっていたので、本当に頑張ってよかったなって思っています」と感想を漏らしたように、この思いこそが、圧巻のパフォーマンスを呼び込む原動力となっているのだろう。 そして、羽生さんにとっても大きな達成感が得られた。それは、囲み取材で発した次の言葉に凝縮されている。 「ある意味、自分の中でオリンピックを獲ったというぐらい、練習してきたことが達成できました」 早くも「続編」「再編」を期待する声が上がる。「まだまだ進化し続けたいなと思っています」という飽くなき向上心は、きっとさらに高いレベルでのパフォーマンスへとつながっていくだろう。
田中充