「アジアゾウ北上」のその後、中国雲南省が保護策を打ち出す
【東方新報】「ゾウは忘れない(An Elephant Never Forgets)」。記憶力の良いゾウは自分が受けた仕打ちを忘れない、必ず復讐(ふくしゅう)する、という意味で使われる英語圏のことわざだ。ミステリーの女王アガサ・クリスティ(Agatha Christie)の探偵・エルキュール・ポワロ(Hercule Poirot)シリーズの一つ「象は忘れない(原題:Elephants Can Remember)」で知った方もいるかもしれない。 ゾウは知能の高い哺乳類として知られている。人間には聞こえない低周波音で数十キロ離れた仲間と会話できるほか、仲間が死ぬと、周囲に集まって鼻で亡きがらをなでる葬式のような行動を取ることも確認されている。 2021年には、中国内陸部の雲南省(Yunnan)西双版納(シーサンパンナ、Xishuangbanna)で、15頭前後のアジアゾウの群れが生息地を離れて北上を開始。約500キロ離れた同省の中心都市である昆明市(Kunming)郊外に到達し、そこから引き返したことが話題になった。 群れが生息地に帰還するまで1年半。巨大なゾウの群れが近づいてきたことから、避難を余儀なくされた人は15万人以上になったという。 もっとも、ゾウの群れがなぜ北上したのかはいまだに分かっていない。経験の浅いリーダーが群れを道に迷わせたのではないか、新しい生息地を探していたのではないか、などの見方が出ている。 ゾウの放浪を入り口にして、アジアゾウの生態を掘り下げたドキュメンタリー映画『象行記』も製作中だ。中国、カナダ、シンガポールの映画・テレビ団体が共同制作し、2024年に80以上の国と地域で上映される。 地元の雲南省も2023年12月、アジアゾウを保護するために、生息地の保護といった五つの地域基準を導入するなど対策を急いでいる。具体的には、生息地を保護して食料源を確保し、群れが生息地を離れるような事態を防ぐことだ。 中国科学院西双版納熱帯植物園でゾウを研究するスペイン人研究者のアイムサ・アルセイスさんは、「近年の保護活動の成果でアジアゾウの個体数が増加した結果、群れで人間の生活環境に出て行き、摩擦を起こす確率が高まっている」と指摘している。 現在、この地域に生息するアジアゾウは約300頭。中国メディアによると、ゴムなど換金作物の耕作地が広がり、森が狭くなっていることも「謎の北上」に影響している可能性があるという。 ゾウの群れの北上をきっかけにして、地元の雲南省などは生息地の保護など本格的な対策を打ち出した。これまで指摘されてきた課題も改善されていくだろう。 ただ、記憶力が良いといわれるゾウである。生息地の居心地がちょっとでも悪くなれば、2021年の北上を思い出し、再び生息地を離れてまた騒ぎになるかもしれない。 なぜ住み慣れた森を離れて、危険な放浪の旅に出たのか。できるものなら、西双版納のゾウたちにゆっくり話を聞かせてもらいたいものである。(c)東方新報/AFPBB News ※「東方新報」は、1995年に日本で創刊された中国語の新聞です。