「医療は総合力が重要なのです」 徳田虎雄の主治医、湘南鎌倉総合病院院長・小林修三の命の支え方
■人の死からは逃れられない 人生の幕引きも考える 小林は、親族と交わしたインフォームド・コンセントについて、こう語る。 「徳田先生は、まぎれもない傑物です。ご家族に、まず申し上げたのは、ご本人の尊厳を重んじましょうということです。それで、強く、美しいままお見送りしようとなりました。医師は、人が亡くなる場面から逃れられません。嫌な商売ですが、先逝く方に人生の幕をどう下ろしていただくか、そのエンディングの舞台を設(しつら)える者でもあります。みんなが拍手をして、あなたはよくやった、すばらしい、ありがとうと言える場を提供するのも、われわれの仕事の一つです」 徳田が逝った翌日も、湘南鎌倉総合病院には救急患者が次々と運び込まれ、669床のベッドはほぼ埋まった。徳田が掲げた「24時間・年中無休の救急診療」は徳洲会の旗艦病院に受け継がれている。 院長の小林は、そのかじ取りに全力を傾ける。 毎朝、7時に自宅を出て迎えの車に乗り、大好きなクラシック音楽を聴きながら出勤する。病院に着くと、書類の山に目を通し、8時から講堂の「朝会」に出て職員を前にスピーチをおこなう。 私が取材で密着した日、小林は朝会を終えると、腎臓内科病棟の入院患者の診療検討会(カンファレンス)に加わり、部下の医師たちの治療法を厳しくチェックした。10時30分、数人の若い医師を引き連れて病棟の回診に出る。70代の糖尿病性腎症の女性患者と向き合い、こう語りかけた。 「おはようございます。元気そうじゃないですか。どうですか、あ、足がつったの。この病気で足がつるのはね、そろそろ腎臓が音を上げているサインです。でもね、ここからが再スタートですよ。いいですか。第二の人生の始まりですよ」 女性患者は、糖尿病の合併症で腎臓が機能せず、血液中の老廃物や余分な水分を尿として排泄(はいせつ)できなくなっていた。体外の人工腎臓に腕の血管から取り出した血液を送って浄化して戻す人工透析に踏みきるかどうか迷っていた。人工透析は、一度始めたら止められない、生涯つづく治療法なのだ。 患者の不安を小林は和らげようとする。 「透析ライフという言葉があります。1回4時間、週3回の透析が必要ですが、それ以外の時間をあなたらしく過ごしてほしい。いまお読みのその本は? へぇ、辻仁成の『冷静と情熱のあいだ』。恋愛小説ですね。音楽がお好きですか。カントリー&ウエスタンのファン! おー、透析を始めてもライブハウスに行けるよう、われわれも支えます。一緒にやっていきましょう……」