「BEVにおいてフロントランナーにならない」決断をしたマツダ…日系OEMの課題と展望は?
MX-30 ロータリーEV
今の自動車産業は電動化やカーボンニュートラルがキーワードで変化が起きているが、自動車製造業のカーメーカーには再生エネルギーへの転換コストや脱炭素コスト、資源調達の困難やサプライチェーンの変化によるコスト変化など、さまざまなことが起きていて悩ましい時期でもある。 ◆“ゼロスタートできない”自動車製造業の判断 そうした中2023年9月14日にマツダからロータリーエンジンを使ったプラグインハイブリッドが発表された。その説明の中で、技術開発のトップ廣瀬一郎取締役専務執行役員兼CTOが語る内容は興味深かった。 この電動化の時代になぜロータリーエンジンなのか? という誰もが思う疑問に対し、まずBEVにおいてはフロントランナーにはならないと明言した。その理由として「自社だけでなく、サプライヤーも含めてサプライチェーンの構築が必要になるからで、2030年までに新しい技術を学び、蓄積をし、開発しながら電動化を進めていく」と話したのだ。 自動車製造業が完全なEV化へ飛び込むには、背負っているものが大きく、すぐには対応できないことを意味し、全てを切り捨ててゼロスタートなどできるわけがないからだ。これはフォルクスワーゲンにも言えることで、現在のEV販売はテスラとBYDが世界のトップワン・ツーであり、ICEのトップVWとトヨタは及ばない状況になっている。ましてマツダの規模であればフロントランナーになることはないというわけだ。 特に今は、中国やロシアそしてグローバルサウスの動向も含め、「地政学的なリスク、地球温暖化、直近ではCOVID-19の蔓延など予測不能なことも多く、経営環境の不透明さは深まっていくばかり」と話す。「そうした中でカーメーカーは専門メーカーや異業種と相互理解を深め、技術的にも新たなフェーズに進化をさせWin-Winを目指していかなければならない」とも話している。 マツダは電動化について「大気中のCO2総量を抑制することを目標に掲げ、ICEの移行期間であり、電動化技術、代替燃料などで、地域ごとの電源事情に応じてマルチソリューションのアプローチが有効なフェーズである」としている。 ◆BEV開発の本格化とその先は EV比率では2030年にグローバルで25~40%としているが、規制動向によっては変化することも示唆し、マツダのステップは3段階に分け、フェーズ1を現在地としている。 フェーズ1では、「これまでの商品技術を最大限活用し成長軌道に載せる。そして手元資金の財務基盤を作ることで、ラージ商品群、マルチ電動化技術によって魅力ある商品を製造し、本格電動化時代に備える」と位置付けている。9月に発表した『MX-30 ロータリーEV』もマルチ電動化技術の一つであり、一方でスモール、ラージ商品群のスケーラブル・マルチソリューション・アーキテクチャーへの投資はほぼ終えていると説明した。 フェーズ1の仕上げとしては、電動化技術資産を積み上げ、投資資産の有効活用をし、収益を上げ回収する。つまりBEV開発の本格化へ向けて一歩を踏み出したところであり、その先の展開として予測されるのは、搭載車種を増やす横展開になる。それは技術資産の有効活用と考えれば当然なのだが「具体的には考えていない」とエンジニアたちは口を揃え、「まずはロータリーEVが受け入れられるかを期待しているところ」という。 そもそもなぜMX-30が初出しに選ばれたのかと言えば、「(同車は)技術シンボルに位置付けられたモデルであるから」という回答があった。確かにデビューしたときも魂動デザインとは一線を画すデザインに見え、デザイン言語の解釈を広げて挑戦した姿であるなど、何かにトライするときにMX-30が登場している。 そうしたことから、ロータリーEVがMX-30でスタートしたという説明は一応の理解は得られる。そうなると、次なる展開はどうなるか? ということになるが、マツダからは、いやに慎重なコメントしか出てこない。そこで、これまでの知見から予測してみると、『マツダ2』や『マツダ3』『マツダ6』のスモール商品群のハッチバック系には搭載できそうにない。その理由はバッテリー搭載方法だ。MX-30ではフロア下にバッテリーを敷き詰め、プラットフォームの後端には50リットルの燃料タンクを持つ構造になっているが、ハッチバック系のフロアにバッテリーを搭載するとキャビンスペースが確保できなくなるのは間違いない。
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レスポンス 高橋アキラ