【相撲編集部が選ぶ秋場所初日の一番】大の里、土俵際の叩きで物言いつくも辛勝。大関に向け白星発進
大の里の大関、あるいは琴櫻の初優勝のほうに風が吹き始めているのか
大の里(叩き込み)熱海富士 徳俵の上、左足一本。体を飛ばされながらも、何とか白星を手にした。 今場所最大の注目力士となっている大の里だ。この日は頭を下げて出てきた熱海富士に追い込まれ、土俵際での叩きに勝負をかける苦しい相撲。物言いがつくきわどい勝負となったが、結果的に軍配どおりで白星発進につなげた。 今場所の大の里には、「優勝を争うような星を残せば大関昇進も⁉」という期待がかかっている。新関脇だった先場所は9勝に終わっており、直前の勝ち星が一ケタで大関取りがうんぬんされるという、ほぼ前例のないケースとなってはいるが、それも大の里のポテンシャルと、そして状況のなせる業だ。 まず、星勘定で言えば、先場所は9勝だったとはいえ、その前は新入幕から11勝、11勝、そして小結で12勝して優勝、という実績があることが一つ。数字的には今場所12勝以上挙げれば可能性が見えてくる、というところであり、それができても不思議でない実力は、すでに周囲から認められているからだ。 そしてもう一つ、今場所は横綱照ノ富士が初日から休場しているという状況も大きい。大関昇進には、星勘定と並んで「昇進ムードが盛り上がるか」というところが大事になってくるが、この点では、「(まるで横綱昇進の条件のようだが)優勝するか、あるいはそれに準ずる成績」ぐらいの活躍が必要だと思われる。これに関して、照ノ富士休場という状況下で、優勝候補は? と問われれば、最近の実績から、琴櫻、豊昇龍の両大関と並んで、大の里の名前が挙がってくるのは自然で、「優勝あるいはそれに準ずる成績」も、残せて何の不思議もない状況、というあたりが、「直前一ケタ勝利での大関取り」という異例の雰囲気を形づくっているといえる。 前置きが長くなったが、この日の熱海富士戦だ。熱海富士には、大の里はこれまで2戦2勝だが、過去の内容を見ると決して楽な相手ではない。大の里はまず右差し狙いで立つので、熱海富士に左上手を先に引かれやすい面は常にあるからだ。加えて、体格差のある力士なら、大の里は右さえ差してしまえばある程度起こせるが、体格に差のない熱海富士の場合にはいつもそうできるとは限らず、苦戦の可能性は常に秘める相手だとは言えた。 この日も大の里は右は差せたが上手を先に取られ、左おっつけから強引に攻めたところを上手投げで体勢を入れ替えられ、その後、頭を下げて出てこられて防戦一方となり、窮余の策の叩きで白星を拾った、という内容だった。 【相撲編集部が選ぶ秋場所初日の一番】阿炎の突っ張りにも腰の備えは崩れず。豊昇龍が新大関初日を白星で飾る 「(内容は)相手のペースで、よくなかった」とは取組後の大の里。来場所以降もあることなので、相撲内容については深くは語らなかったが、そこには反省をしつつも、結果として勝てたことには、「先場所、初日に負けているし、入りが大事だと思ったので、勝てたのは大きい。よくない相撲でも勝ちに結びついたのは、何かしらよかったのだと思う」と、前向きに受け止めているよう。このあたり、とりあえず、初日から連敗し、ペースをつかめぬまま入っていくことになった先場所とは違うスタートが切れたことは確かなようだ。 あす2日目は曲者の翔猿との対戦。熱海富士とは全くタイプの違う相手となるが、今場所の動きを占うという点ではこれも注目の取組となりそうだ。 この日は大関豊昇龍が、先場所から完全に全盛時の勢いを取り戻したようになっている隆の勝に敗れて土。早くもV候補の一角が崩れた。もちろん初日が終わっただけなので、まだまだ勝負はこれからだが、大の里の大関、あるいは琴櫻の初優勝のほうに風が吹き始めているのか。 この日は、大の里の初優勝の優勝額が掲げられたが、今場所の優勝候補3人は、優勝すれば琴櫻は初、豊昇龍は2回目となるが大関昇進後では初、大の里は2回目と、誰が勝っても「V常連への軌道に乗る大きな一歩」の位置づけとなる。照ノ富士不在の場所に、次の時代の覇者に名乗りを上げるのは、果たして誰になるだろうか。 文=藤本泰祐
相撲編集部