金融バブル破たんの「ドラマ」はまだ終わっていない――ノンフィクション作家、清武英利さん
プライベートバンカーが住専マネーを差配している
――無謀な借り手の行状ということで言えば、浪速の借金王と呼ばれた末野興産の末野謙一氏(※5)について、書き込んでいらっしゃいます。実際に会いに行ったわけですか? (※5)バブル期、末野興産を経営した不動産会社経営者。住専各社からピーク時には1兆円もの融資を受けたが、その多くが不良債権化した。 本人に3回くらい会って、かなり聞きました。その人でしか話せないことがあるから。「ワルだから話を聞かない」というのは社会部記者ではないですね。一人の人間としてインタビューをすることはとても大事だと思います。人にはそれぞれヒストリーがあります。彼には彼のヒストリーがあるのです。それを丹念に聞き、そのオーラルヒストリー(口述歴史)を再構成する。それが僕の仕事です。 ――先ほど、住専マネーがタックス・ヘイブンに隠されていたのが大きな発見だった、という話がありました。具体的にはどういうことですか? タックス・ヘイブンの地に住専マネーが流れて、海外のプライベートバンカーが住専マネーを差配しているわけです。パナマ文書(※6)などが問題にされている時に早く見つけていれば、また、違った展開になったかもしれないけれど。ただその対策は必要だと痛感しています。借り手がプライベートバンカーを使って隠匿しているのに容易に手が出せないのです。トッカイの人たちは、米国機関との司法共助や訴訟などを通じて、長い間戦ってきている。でもトッカイの人たちの戦いは発表されないので誰も知らない。 (※6)パナマの法律事務所から流出した租税回避にかかる内部文書。南ドイツ新聞が匿名の人物から入手し、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ) が検証して2016年に公表された。 公的資金で住専処理が行われたのだから、その処理がどのように行われて、何が壁になっているのかについて、国民は知らされるべきだ。まだ回収作業は続いているんだということ自体が、全然明らかにならない。「悪質な借り手は許さない」という、そのメッセージの行方も公表してもらいたいですね。なぜ沈黙の中で回収が行われているのか。それでは国民の側からのチェックも反省もありえないのではないか。報道機関がもっと関心を持てば絶対、発表せざるをえないと思うのです。 ――なぜ、メディアは住専処理の行方にあまり関心をもってこなかったのでしょう? 忘れっぽく、調査能力も低下しているからだと思います。一方で極秘情報につながる道や壁は険しくなっている。壁にぶち当たると人間は関心を失う傾向にある。メディアの競争が昔ほど激しくないということもあるかもしれません。「公的な資金に絡むことは経済部や政治部の仕事」と思ってしまったらお終いですね。新聞社は社会部とか、経済部とか、政治部とか縦割りの世界で生きているけれど、現実の世界は政治も経済も社会も絡み合い、交錯し、すべて関連している。そんな縦割りの組織で物事が理解できて、分析できる時代は終わっているんです。