金融バブル破たんの「ドラマ」はまだ終わっていない――ノンフィクション作家、清武英利さん
「彼らがいたからこそ日本は再建に導かれた。失われた20年というけれど彼らの人生は決して失われていない」とノンフィクション作家の清武英利さんは言う。新聞記者として金融バブル破たんの現場をつぶさに見てきた。その豊富な経験と取材力で、山一證券の清算に携わった社員たちを描いた『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社)や、外務省機密費流用事件を暴いた警視庁捜査2課の刑事たちを描いた『石つぶて 警視庁二課刑事の残したもの』(講談社)など骨太のノンフィクション作品を世に出してきた。そんな清武さんの新作『トッカイ(不良債権特別回収部) バブルの怪人を追いつめた男たち』(講談社)の舞台は巨額の債権回収の現場。主人公の「彼ら」は、現場で不良債権回収のために駆け回る人たちだ。清武さんに、新作への思いと現在の報道を巡る状況について語ってもらった。
トッカイとは?
――トッカイというのは、整理回収機構(※1)の特別回収部の略なのですね。週刊現代の連載を書籍化されたわけですが、本になってどのような思いですか。 (※1)住宅金融専門会社(住専)の不良債権処理のため1996年に設立された住宅金融債権管理機構を前身とし、住専処理にとどまらず破たんした金融機関の債権を処理する機関として1999年に株式会社整理回収機構が設立された。 3年半かけて自分にとっての総括、それがようやくできたという感じですね。金融破綻は、色々な側面から切り取れるわけです。僕は中坊さん(中坊公平、元弁護士・整理回収機構社長)のことは、既に少しだけ書いていますが、それは整理回収機構トップの目線ですよね。不良債権を巡るさまざまな事件についても書きました。それは捜査機関など当局の目線です。現場で回収に走り回っていた多数の人たちは何を考え、何のために生きたのか。「失われた20年」と言うけれど、その言葉は彼らにとっては屈辱的な言葉であって、彼らの人生は決して失われた人生ではないですよ。彼らが叱咤激励されながら回収に走り回ったから日本が再建へと導かれた一面があるわけです。 ――整理回収機構はよく耳にしますが、これまでどんな人たちがどんな仕事をしているのかわかりませんでした。トッカイを読んで、既存のメディアが伝えていないバブル破たん後の債権回収の現場の様子がよくわかりました。その意味ではとてもジャーナリスティックな内容だと思いました。 金融破綻には新事実が眠っているはずなんです。あれだけ膨大な、180もの金融機関がつぶれたのだから。どのように破綻をして、その時、人はどのように動いたのか。この本は個人のレベルにまで目線を落としているわけですね。庶民から見た回収劇であり、庶民から見た無謀な借り手の行状であり、庶民から見たバブルの惨状。(自分の)身の丈に合ったところから物事を見るのは、大事なことだと思います。そうすることでこれまで見えていなかったことも見えてくる。(今回の取材で)住専マネー(※2)がプライベートバンカー(※3)の手でタックス・ヘイブン(租税回避地、※4)などに隠されていたということは、一つの大きな発見でした。 (※2)住宅ローン専門のノンバンク、金融住宅専門会社(住専)がバブル経済期に融資し不良債権化した巨額マネー。 (※3)富裕層などの金融資産を本人に代わり管理・運用する金融業務。国内では馴染みが薄いが、欧米では富裕層がプライベートバンクを使って資産管理をすることが常識化している。 (※4)課税が免除されたり軽減される国や地域のこと。ケイマン諸島やパナマなどが有名。