「噛む力」が弱いと「循環器疾患」リスクが5倍に!上皇陛下執刀医が教える歯と心臓の密接な関係「歯が多い人ほど認知症・転倒リスクは下がる」
厚生労働省の「令和4年 人口動態統計」によると、日本人の死因第2位は「心疾患」で、23万2879人が亡くなったそう。そのようななか、「命にかかわる血管と心臓の病気も、生活習慣で予防できる」と話すのは、2012年に当時の天皇陛下(現・上皇陛下)の執刀医を務めたことで広く知られる、心臓血管外科医の天野篤先生。今回は、天野先生が「命を落とすリスク」を減らすためのアドバイスをまとめた自著『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』より、一部引用、再編集してお届けします。 【書影】上皇さま、美智子さまにもお伝えした「血管元気」「心臓元気」の処方箋。天野篤『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』 * * * * * * * ◆「しっかり噛む」という動作が心臓に影響を与えている 「噛(か)む=咬合力(こうごうりょく)が弱い人は心臓疾患になりやすい」という研究報告があります。 国立循環器病研究センター、新潟大学、大阪大学の共同研究チームが、大阪府の吹田市民を対象としたコホート研究(統計上、同一の性質を持つ集団への調査研究)を解析したもので、50~79歳の一般住民のうち歯科検診を受診した1547人を追跡したところ、「噛む力=最大咬合力が低い人は、噛む力の高い対象者に比べて循環器疾患の新規発症リスクが最大5倍も高い」ということがわかったのです。 なぜ、噛む力が弱くなると心臓疾患を発症しやすくなるのかについては、まだはっきりしたことはわかっていません。 ただ、「しっかり噛む」という動作そのものが心臓に影響を与えていることが考えられます。
◆しっかり噛む人は、副交感神経が優位になる状態が多くなる 食事をするなどして上下の歯を合わせて噛む動作をすると、「噛んだ」という情報が脳に伝わり、次に消化吸収を促進させようとします。このとき、活発に働くのが副交感神経です。 人間が生命を維持するために欠かせない呼吸、血液循環、体温調節、消化、排泄といった機能は自律神経によってコントロールされています。 自律神経は、交感神経と副交感神経のバランスで成り立っていて、交感神経は活動時や緊張状態で優位になり、副交感神経はリラックスしているときに優位になります。 交感神経が優位な状態では、神経伝達にかかわるホルモンのひとつ、「アドレナリン」が分泌されて心拍数増加や血管収縮による血圧上昇が起こり、心臓の負担が増えて動脈硬化が促進されてしまいます。 いっぽう、副交感神経が優位になると、心拍数が抑えられ、血管が拡張して血圧も低下し、心臓の負担は少なくなります。 日頃からしっかり噛むことができる人は、副交感神経が優位になる状態が多くなり、心臓や血管へのダメージを減らせると考えられるのです。
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