【稽古場レポート】藤井隆の明るさが鍵?河原雅彦が“アベンジャーズ”と挑む、KERA CROSS「消失」
KERA CROSS 第6弾「消失」の稽古場取材と、演出・河原雅彦の合同取材会が、12月下旬に東京都内で実施された。 【写真】演出家の河原雅彦が取材に応じる様子。 KERA CROSSは、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)の戯曲をさまざまな演出家の手で上演するシリーズ。第6弾となる今回は、KERA率いるナイロン100℃で2004年に初演、2015年に再演された「消失」を、河原が演出する。作中では、6人の“善人”の“善意”がかけ違い、彼らの日常が破滅へ向かっていく様が描かれる。 クリスマスの夜。パーティの計画を練る兄チャズ(藤井隆)と弟スタンリー(入野自由)の家に、弟が思いを寄せる女性スワンレイク(佐藤仁美)、闇医者のドーネン(坪倉由幸)、家を間借りに来た女性ネハムキン(猫背椿)、ガス修理業者のジャック(岡本圭人)が訪れて……。 稽古場に足を踏み入れると、チャズ(藤井)とドーネン(坪倉)がタイプライターのような謎の機械を使って、スタンリー(入野)の記憶を消すシーンの実演中だった。頭に複数の電極コードを付けられ、静かにソファに座る入野と、その横で熱くセリフを交わす藤井と坪倉という対照的な構図に目を奪われる。シーンの区切りが付くと、スタッフと入野がコードの調整へ。その間、藤井はセットのベッドに座って台本を確認し、そこへ近付いた坪倉と、何やら真剣な表情で掛け合いセリフを振り返っていた。 続いて稽古は、ドーネンが息子と電話中、同じ部屋にいるジャック(岡本)がその会話の内容を聞きながら1人でリアクションを取る場面へ。河原は気になるポイントで稽古を止めながら、1つひとつのセリフや動きについて細かいニュアンスをキャストと擦り合わせていく。ドーネンが電話の切り際に言う「今なんか変な音がしなかった?」というセリフを坪倉が発すると、河原は「ここで聞こえた音ってどんな音?」と坪倉に問いかけ、そのイメージを「ノイズのような音」に統一。すると坪倉がそのセリフを言う前に、“おかしな音が聞こえた”という演技が加わった。また、このシーンでマイムによる感情表現が多い岡本に対しては、河原が自らアクティングエリアに出て、“相手に興味はないが、とりあえず相手のレベルに合わせてあげている”というジャックの心境を反映した振る舞いを実演してみせる。岡本は、その絶妙な塩梅を自分のものにするため、同じ動きを繰り返し練習していた。 稽古場取材の前に、河原が取材に応じた。「カメレオンズ・リップ」「室温~夜の音楽~」でKERA作品の演出を経験し、今回が3度目となる河原は「KERA作品を演出させてもらうときは、普段は意識しない足の人差し指にまで神経を通わせています」と比喩を交えてその難しさを明かす。稽古の進め方について問うと、「笑いの作り方も単純ではないので、台本の字面からは想像が付かないような箇所が面白くなったりする。多くの演劇作品では、稽古期間の序盤はミザンスと呼ばれる俳優の立ち位置をザーッとつけていくことで進められますが、KERA作品は場ごとの空気感をみんなで1つずつ確認していくのが最優先。僕を含めたみんなにとってあまり経験がないやり方なので、これを1カ月やるのは新鮮なこと」と充実した様子を見せる。以前から好きだったという「消失」の物語については「救いがない作品」と率直に述べつつ、「登場人物全員が裏で何かを抱えている役どころですが、物語前半ではそれが隠されているので、お客さんを油断させるかのように、おかしく見える箇所を随所に挟みながら展開していく」と説明した。 「消失」はナイロン100℃の本公演として同じキャストで2度上演されたため、「KERAさんが信頼する劇団員を想定して書かれた、とても濃密な作品なので、演出を預かる側にとっては高難易度」と河原。今回新たに集めたキャストについては「この作品に臨むにあたり、僕にとってのアベンジャーズが必要だった」と表現し、「この人たちなら地球を救えるのでは(笑)」と厚い信頼を寄せる。「チャズ役の藤井くんは根っからの“ネアカ”で、(オリジナルキャストの)大倉(孝二)くんからは『なんで引き受けちゃったの? “ネクラ”じゃないとできないよ』と言われたそう(笑)。僕は藤井くんに対して、“過剰過ぎるサービス精神”とでも言うような、狂気性のようなものを勝手に感じていて(笑)。藤井くんのそんな一面が見えたら、作品にとっても新たな面白さが生まれるはず」と期待を込めた。 河原が初タッグを組む岡本については「もともと、役を演じたときにどうなるかが読めないキャストが1人くらいはいたほうが楽しいだろうと思っていましたが、圭人くんがまさにその存在。本人とも話していたのですが、これまで圭人くんがやってきた役の多くは、何かを言うことによって“風”を起こす役。でも『消失』で描かれるのは、“こんなはずじゃなかった”という状態の人々なので、受けの芝居が大事になる。だから圭人くんにとって大きい経験になるはず」とコメント。「圭人くんは意外と緊張しいで、稽古中に『僕大丈夫ですか?』といった様子ですごく目が合うんですよ(笑)。とても貪欲な人で、いつも最後まで残って台本を読んでいるので、初日を迎える頃にどうなっているかが楽しみ」と目を細めた。 公演は1月18日から2月2日まで東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA、6・7日に大阪・サンケイホールブリーゼにて行われる。 ■ KERA CROSS 第6弾「消失」 2025年1月18日(土)~2月2日(日) 東京都 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA 2025年2月6日(木)・7日(金) 大阪府 サンケイホールブリーゼ □ スタッフ 作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 演出:河原雅彦 □ 出演 藤井隆 / 入野自由 / 岡本圭人 / 坪倉由幸 / 佐藤仁美 / 猫背椿