「奥川を出させるな!」で一致団結、24年ぶり4強決めた星稜の意志力と監督采配の妙
”頂点”が見えた、といえば言い過ぎだろうか。北陸勢初の全国制覇を狙う星稜(石川)は18日、甲子園で行われた仙台育英(宮城)との準々決勝で、プロ注目の奥川恭伸投手(3年)を温存して17対1で快勝、24年ぶりにベスト4へ駒を進めた。前日に延長14回、165球を投げ抜いた奥川の登板を回避した星稜は、「奥川を出させるな」で一致団結。打線が4発を含める22安打17得点と大爆発すると、先発に抜擢された2年生の荻原吟哉投手も大量援護をバックに7回1失点と期待に応えた。中京学院大中京(岐阜)との20日の準決勝まで奥川は中2日の休養を取れることになり、星稜の悲願達成への道筋が見えてきた。
裏方に徹したエース奥川
星稜ナインの合言葉は「奥川を出させるな!」だった。 林和成監督は、負ければ終わりの甲子園大会においてエースの先発回避を決断した。 死闘となった前日、17日の3回戦、智弁和歌山戦で奥川はタイブレークの2回を含め、延長14回を1人で投げ抜いた。3安打1失点(自責0)で23奪三振をマークしたが、165球を投げるという代償を負った。奥川の未来、そして、今後をにらみ、頂点を奪うためには、ここで奥川を温存させる必要があった。前日のミーティングで、林監督は、このことをナインに伝え、意思統一をはかった。 中学時代からバッテリーを組む主将の山瀬慎之介捕手は「ミーティングから奥川なしで勝とうと話していた。全員にその気持ちが強かった」という。 ただ先発は回避するが、林監督は、奥川に「終盤に2点差なら投げてもらう」とも伝えていた。 先発には、2年生で奥川の一番弟子でもある荻原を抜擢した。 荻原は、「先発を言われたのは試合前の室内練習場です。僕しかないと思っていたし、もう一度、奥川さんにマウンドに立ってもらおうと気合が入っていました。奥川さんを優勝投手にさせたいと投手陣はみんな思っているんです」と、その重圧をパワーに変えた。 打線のバックアップが不可欠だと考えていた林監督は、県大会から当たっていた2年生の今井秀輔左翼手を2番に抜てきした。 その初スタメンの今井が、2回の左越え満塁アーチ、3回にもタイムリー二塁打。あわやサイクルの3安打7打点の大暴れ。先発の荻原も、大量援護に支えられ丁寧にボールを低めに集め4回にソロアーチを許したもののスコアボードにゼロを刻んでいく。 奥川は裏方に徹した。 この日の主な任務は掛け声とかわいい後輩のケア。投げ終わってベンチに戻ると氷で体を冷やし、気づいたことをアドバイスした。 「まさか、あんなに打つとは。序盤を終え、8対0になったとき今日は(出番は)ないな、と思った」 8点のリードを奪った3回の時点で勝利を確信したが、4回の途中に一塁側のブルペンに向かった。軽い立ち投げで感覚を確かめただけだが、それを認めた甲子園は、どよめきとざわめきに包まれていた。 「どんな感じかなと。筋肉痛はありましたけど、全然、投げられると感じた」 奥川なりのチームへのメッセージだったのかもしれない。 6回に荻原が2死から連打され、一、三塁になると伝令役としてマウンドに走った。林監督に「ちょっと笑いを入れてこい」と背中を押されジョークを交えて伝えその場を和ませた。 「もっと楽に行こう。オレは今日投げたくないぞ。任せたから」 萩原は踏ん張り、結局、7回まで1失点の好投を見せた。8、9回は、寺沢孝多が無失点を守って見事なリレー。終わってみれば、17対1の圧勝。しかも、星稜は奥川温存に成功した。 「打ってくれて感謝しています」 奥川は、試合後、ずっと笑顔だった。