「宇宙に住む未来って本当にくるんですか?」SLIM開発者とともに考える、月での暮らしと地球の課題解決のヒント
小型月探査機・SLIM の打ち上げが今後の研究の試金石に
三菱電機先端技術総合研究所、及び三菱電機は、宇宙や月での事業開発や新たな可能性の探究に向けて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと共同して研究開発を手がけている。その一環として近年注力しているのが、小型月探査機・SLIM (Smart Lander for Investigating Moon/スリム) の開発だ。 SLIMは2023年9月に打ち上げられ、2024年1月には月面着陸に成功。当初予定していた着陸目標地点から、東側に55m程度の位置に着陸したと推定されている。この結果は、数~十数kmの誤差が生じていた従来の着陸精度を大きく上回っており、「世界初の成果」と言えるという。 清水さんはSLIMの打ち上げについて、これまでの探査機と比べて、着陸地点の精度を数kmから100mレベルまで向上させた点が最大の特徴だと語る。 「SLIMのミッションは、200kg級の小型・軽量な探査機で、あらかじめ定められた特定の場所に着陸することです。従来の"降りやすいところに降りる"探査ではなく、ピンポイントで指定した"降りたいところに降りる"探査ができるようになれば、月の起源を探るうえで重要とされている地点に降り立って研究ができたり、緊急支援が必要になった際に地球からすぐに助けに行ったりということが可能になる訳ですから、月での生活の実現に一歩近付くとも言えます」 一方の北村さんは、宇宙空間で撮影した月面の写真をもとに、探査機の位置を推定したり、月面上の障害物を回避して安全な着陸地点を決めることに成功すれば、同様の技術を他の分野の調査に応用できる可能性が高まると期待を込める。 「月ではGPS(全地球測位システム)が使えないため、SLIMでは搭載されたカメラで月の表面を撮影し、その画像から自分がいる位置や速度を推定して、着陸点へと向かいます。この一連のプロセスは"画像航法"と言われているのですが、この技術を獲得できれば、周囲の自然環境の影響から画像航法を用いるのがより難しいとされている月の南極域への着陸にも自信を持って挑戦できるようになります」 月の南極域は太陽の仰度(高度)が低いため、カメラで月面の画像を撮ると影が長く暗く写りやすく、より高度な技術が必要とされていると北村さんは補足する。 「今回のプロジェクトが成功すれば、調査がより一層進むかもしれませんし、月以外の惑星にも着陸しやすくなるかもしれない。そういった意味で、今回のSLIMの打ち上げは将来の様々なミッションの試金石になると考えています」