経済学者が語る 「日本人の賃金を上げる唯一の方法」とは? その主張を田中秀臣が解説(レビュー)
経済学者は主に数学的なモデル分析とデータ解析が仕事の中心だが、他方で文章の力で一般の人たちに強く啓蒙を働きかけるタイプの人もいる。アダム・スミスもケインズもどちらかというと後者のタイプだった。まず文章が個性的で、しかも通説を破壊し、そこから新しい知見を生み出す人たちだ。原田泰『日本人の賃金を上げる唯一の方法』は、この文章家としての経済学者の名調子を存分に味わうことができる新作だ。 原田節の特徴は、統計データを根拠にした、通説の創造的破壊にある。「日本は米国にキャッチアップしたが、そこから新しいことができずに停滞している」という見方がある。これに対して本書では、データをもとに日本は明治以来、ずっと米国に追い付いていないとし、むしろ米国を真似すべきだと説く。何も無理をしてゼロからイノベーションを生み出すことはない。 また「成長戦略によって日本経済を再生する」というキャンペーンを政治家も官僚もしがちだ。だがその「成長戦略」がなにを意味するのか、言っている本人たちもわかっていないと本書は指摘する。中身がからっぽな「成長戦略」よりも、景気を刺激して人手不足の状態を生み出すことの方がよっぽど経済を成長させる。人手不足の民間企業は機械を導入して経営を効率化する。また人手不足は賃金など待遇の改善につながるだろう。行政は余計な口出しをせずに、民間が自由に活動すること。これが賃金を上げる唯一の方法だ。 [レビュアー]田中秀臣(上武大学教授) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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