年金の繰下げを決断した“長生き家系”夫婦の大誤算…激安スーパーをハシゴし「食費2万円」の超倹約生活で無受給期間を乗り切るも、5年後に後悔の涙「さっさともらっておけば」【FPの助言】
予期せぬ間質性肺炎の発症…取り戻せない時間への後悔
しかし、70歳になったばかりの佐藤さんに、思わぬ出来事が起こります。トレッキングから帰宅した翌日から咳が止まらず、息切れも感じたため病院を受診したところ、間質性肺炎と診断されたのです。 間質性肺炎は、肺の間質と呼ばれる部分に炎症が起こり、進行すると呼吸困難を引き起こす深刻な病気です。佐藤さんの場合、幸い早期発見だったため重症化は免れたものの、日常生活に一定の影響が出ることに…「診断を受けた時は本当にショックでした。これまで健康には自信があったのに」と佐藤さん。 治療は継続的に行われているものの、体調次第では趣味のトレッキングに行くことも難しくなってしまいました。「階段を上るのも辛いこともあるんです。在宅酸素療法も検討しているところです」と佐藤さんは声を落として語ります。 「こんなことになるなら、健康なうちに夫婦で人生を楽しむために年金を使いたかった……」と佐藤さんは後悔しました。「泊まりでトレッキングに行ったり、趣味を楽しんだりする時間があったのに、それを逃してしまった」。妻の京子さんも同じ思いです。「主人の病気をきっかけに、お金よりも時間の大切さを実感しました。今、健康なうちに楽しめることを楽しむべきだったと思います」と、目に涙を浮かべながら語りました。
繰下げによる年金増額は魅力的だが、慎重な判断が必要
年金の繰下げ受給には、確かに大きなメリットがあります。1ヵ月繰下げるごとに0.7%増額され、10年間繰下げると84%も増額されます。佐藤さんの場合は5年間の繰下げで約42%、月5万円ほど増額されました。海外駐在をしていたこともあり、年金額は平均より少ない水準でしたが、繰下げによって元々月18万円の受給額が月23万円程度に。平均受給額に近づいた形です。 しかし、デメリットもあるのです。まず、繰下げ期間中は年金を受け取れないため、その間の生活費を確保する必要があり、佐藤さん夫婦はその期間、徹底的な倹約生活を自らに課しました。年金の繰下げを検討する際は、単に金額だけでなく、自分の人生設計全体を考える必要があります。健康状態、家族の状況、やりたいことなど、総合的に判断することが大切です。 佐藤さんの経験は、年金繰下げの決断が必ずしも正解とは限らないことを教えてくれます。長生きのリスクに備えることも大切ですが、今を生きる幸せも同じくらい重要なのです。 最後に、佐藤さんは次のように語ってくれました。「年金繰下げを考えている人は、自分の健康状態をよく見極めて、将来の計画だけでなく今の生活の質も大切にしてほしい。そして、定期的に計画を見直し、柔軟に対応することが重要だと思います。私たちの経験が、誰かの参考になれば嬉しいです」 付け加えるとするならば、年金繰下げは全体最適を考えることも大切です。老齢年金の一方のみ(基礎年金または厚生年金)を繰下げる、あるいは、夫婦の場合は統計的に寿命の長い女性である妻の老齢基礎年金を繰下げる戦略も有用です。 いずれにしても、繰下げた年金を受け取ってしまった後は、取り消せません。年金繰下げは、長生きリスクへの対策として有効な選択肢の一つですが、それぞれの状況に応じて慎重に判断する必要があります。自分の人生設計に合わせて、柔軟に判断することが求められているのです。 三原 由紀 プレ定年専門FP®
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