夏の冷酒を格別に演出 手磨きにこだわる江戸切子職人・清水秀高さんの技
同じ切子細工では薩摩切子が有名だが、薩摩切子が大名・島津氏の保護のもと、膨大な財を費やした美術工芸として発展した一方、江戸切子は庶民の手によって発展していった。一方で、江戸切子の成熟には明治の開国以降に輸入された舶来品からの影響も大きく、魚子文や籠目文、七宝文といった数十もの伝統文様の一部には、イギリスやオランダのカットグラスとの共通性も見られる。 また、近代の工業化は江戸切子にも技術革新をもたらし、明治中頃までには、回転する砥石に当ててカットをつける現在のスタイルに。動力も人力から石油エンジン、さらには電気モーターへと移り変わっていった。
一貫した手仕事へのこだわり
江戸切子は、専門業者から仕入れた色被せガラス(透明のガラスの上に青・赤・黄などの色付きガラスを被せたもの)をベースとして、その上に細工を施していく。カット部分に印付けする「割り出し」、大まかな切れ込みを入れる「粗摺り」、より細かな細工を施す「三番掛け」、カットした部分を滑らかにする「石掛け」、研磨して輝きを出す「磨き」と、工房での作業は大きく5つに分かれ、清水さんはこの作業を一人でこなす。
一般的なロックグラスなら2日間で1ダースほどの作品を仕上げる。この日は「磨き」の作業を見学させてもらったが、セリウムパットという板に水溶きした研磨剤をかけながらカットに輝きを与えていく。同じ体勢のまま黙々と磨き続ける姿からは、いかに根気と集中な必要な作業かが一見しただけでも伝わってきた。
この工房では昔ながらのソーダガラスを使っているが、今ではクリスタルガラスを使う工房が主流だ。丈夫さがソーダガラスの特徴であるのに対し、材質の柔らかいクリスタルガラスは細かな加工が容易。さらには薬品に漬けて研磨を行う「酸磨き」が可能で、磨きの作業を外注できるため、効率の良さでもメリットがある。今では清水さんのように手磨きをする職人は少数派になったが、だからこそ手磨きは、彼が特段こだわる部分だ。 「弟子入りして最初に任されるのが磨きなので、一人前になると軽んじて見られる作業。でも、毎度カットの形や角度の異なる切子を磨き残しなく一度で仕上げるには熟練の技術が必要です。入り口は広いんですが、今でも奥深さを感じさせられています。」 手磨きの切子は酸磨きのものに比べてカットの鋭角が丸みを帯び、柔らかい手触りに仕上がるという。「若い職人に任せられる仕事を残していくためにも、手磨きを伝えていくべきでは」とも清水さんは語る。