センバツ2024 耐久奮闘、悔しさの春 3000人拍手、ナインねぎらう /和歌山
第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第3日の20日、初出場の耐久は中央学院(千葉)に1―7で敗退した。前半はロースコアで粘り強い“耐久らしさ”を見せ、七回には押し出しで甲子園初得点を挙げるも、相手の猛攻に引き離された。地元から駆け付けた約3000人で満杯となったスタンドからは、最後まで奮闘した選手たちに惜しみない拍手が送られた。【安西李姫、野原寛史】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 先攻の初回にリードオフマンが役目を果たし、チームを勢いづけた。1番打者の堀端朔(3年)が5球目のスライダーを振ると左方向に抜け、チーム初安打の二塁打に。その瞬間スタンドは興奮に包まれ、母万理さん(44)は「どうにか塁に出てくれればと思ったが安心した」と喜んだ。続く赤山侑斗(同)が四球を選び先制の流れを作ったが、後続が断たれた。 エースの冷水孝輔(同)は球数を重ねるごとにリズムをつかんでいく。最初の奪三振は一回に相手4番打者から。その直後、2死一、三塁で適時打を浴びて先制を許すも、ペースをつかまれた雰囲気はなかった。1点を追う四回、2死満塁のピンチには飛球で打ち取り、力強いガッツポーズを見せた。 六回には長打を2本浴び、0―4に離された。迎えた七回、白井颯悟(2年)がこの日2本目のヒットで出塁。その後、2死一塁から中啓隆(3年)が左安打を放ち、続く冷水が死球を受けて2死満塁に。岩崎悠太(同)が四球を選び、執念のチーム初得点を決めた。 更に3点を追加されて迎えた八回、2番手右腕の川合晶翔(3年)にマウンドが託された。「想定外でした。甲子園でも投げたいとは思っていたけれど……」と複雑な表情を見せながらも、三者凡退で見事に抑えた。 6点差で迎えた九回、控えの上野山海人と原野耕守が代打で出て、3年生全員が出場を果たす。2死一塁から、捕手で途中から出ていた江川大智(2年)が初めて打席へ。ポール近くまで飛ばし、球場がどよめく。ベンチから響いたチームメートの「笑え」の声に、江川はとびっきりの笑顔で振り返った。その瞬間、記録員としてベンチ入りした西川心花マネジャー(同)の目から、涙があふれた。最後の打球は相手右翼手のグラブに収まり、試合終了。「よくやった」「ありがとう」。スタンドからは、選手たちをねぎらう声が飛び交った。 ◇人文字鮮やかに 〇…チームカラーのえんじと白に染まった耐久のアルプススタンド。OBらでつくる特別後援会が考案した人文字の「T」が鮮やかに浮かび上がり、全校生徒による臨時の応援団が全身全霊を込めて声援を送った。今回の甲子園応援のために作ったチアリーダーのユニホームもお披露目された。応援団長の山本絢花さん(3年)は「応援で選手たちの気持ちを前に押し、どうにか勝たせたい」と話し、走者が二塁に進んだチャンスの場面では応援に一層力を込めた。強風に寒さ、雨にも打たれたが、助っ人として応援団に加わった向陽高吹奏楽部の部長、中村瑚雪さん(3年)は「序盤は甲子園の青空の下で演奏できた。本当に楽しかった」と笑顔を見せた。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇次見据えるエースの自信 冷水孝輔投手(3年) 甲子園に導いたエースがフルカウントまで粘った末、利き腕の右肘に死球を受け、打席にうずくまった。七回表のアクシデント。手当てのためベンチに引き揚げると、井原正善監督からは「無理すんな」と声を掛けられたが、続投を選んだ。 「(2番手投手の)川合がいる。次の回がラストになると思ったので、気持ち良く投げたかった」。攻守交代。雨に静まるマウンドへと駆け出したエースは、全方位からの温かい拍手に包まれた。 「反抗期もないような、穏やかで優しい子」(父孝彰さん)だが、マウンドに立つと強気な性格が表れる。しかし今月上旬の練習試合では、いつもと違う様子を見せた。プレッシャーもあった。「不安げで、エースの自信と覚悟が足りない」。井原監督の指摘に、その通りだと納得した。フォームを見直して球が走るようになり、自信を持って臨んだ甲子園の初戦だった。 七回裏、3人目の打者のバント処理から右腕が痛みだした。投げる度に思うように動かせなくなったが、最後の力を振り絞って125球を投げ、次へつないだ。 試合終了後、甲子園の土は集めなかった。痛みもあるが、「持ち帰ったら戻ってこられない」と感じたから。「楽しかったという思いより、負けた悔しさが強い。勝つことはできなかったが『甲子園で戦える』と思えたことが自信になった」。夢にまで見た聖地で、次は勝つ。【安西李姫】