職人歴50年、土湯こけしの伝統に遊び心 三大発祥地の技術次世代に、福島
宮城県の鳴子温泉や遠刈田温泉と並び、三大こけし発祥地とされる福島市の土湯温泉。こけし職人歴50年の陳野原幸紀さん(77)は、伝統を大切にする一方で「動くこけし」など遊び心のある作品も手がけてきた。各地で職人が減る中、土湯では3人が弟子入りした。「こけしにはまだまだ魅力がある。技術を次世代につなぎたい」(共同通信=横上玲奈) 十割そばが人気の「味工房ひさご」店主でもある陳野原さんは店舗近くの工房で、そば切り包丁を筆に持ち替え制作に励む。迷いなく前髪や「かせ」と呼ばれる赤い髪飾りを描いていくと、人形の表情が一気に華やいだ。「死ぬまで勉強、これでいいってことはない。口一つでほほえむか、きつくなるか決まる。50年以上続けてやっと、表情に味が出てきたよ」 江戸時代末期から作られていたとされる土湯こけしは、頭頂部の黒い輪や前髪の両脇の髪飾り、細い胴体の横じま模様、柔らかな表情が特徴だ。 陳野原さんは、こうした土湯の正統にこだわった作品でコンクール入賞を重ねてきた。ただ型にはまらないチャレンジも。スタンドライト形、回転するメリーゴーラウンド形、観覧車形など、新しい風を吹き込んできた。
ただ高齢化を背景に、全国的に有名な鳴子温泉を含め、各地の職人は減少傾向にある。陳野原さんが東北6県の職人に呼びかけて30年以上続けてきた職人有志の集まり「美轆会」も2024年9月に解散。土湯でも多いときには20人ほどが所属した職人組合も半数以下になった。 伝統と革新を重んじる陳野原さんの元ではこの春から、新たに20~50代の男女3人が学ぶ。陳野原さんと同じく、別に仕事を抱える二足のわらじだ。「勤めながらでも長く続けて、自分だけのこけしを作ってもらいたい」