藤井聡太はなぜあんなに強いのか…伊藤忠商事元会長が語る「勝者のメンタリティー」
藤井聡太の真髄とは
私には「努力では人に負けないぞ」という自負がいささかありますが、藤井さんは人並み外れた努力家です。そして、彼はいかなるときでも落ち着いている。八冠を達成した王座戦五番勝負の第四局では、一時は劣勢になったものの、なんとか局面を複雑にしようと考えて指していたといいます。最終盤では一手一手に時間をぎりぎりまで使い、永瀬拓矢王座を追い詰めていきました。形勢や勝敗に一喜一憂することなく、真摯に将棋と向き合っている姿勢が、彼の強さの本質だと思います。 負けたときでもしおれるのではなく、「あの局面ではこうすればよかった」という後悔や負けた悔しさをいかにして今後の対局へ活かしていくかを考え、「次は絶対に負けないぞ」と自分を奮い立たせている。その気力、自分自身の力で敗戦を乗り越えて前に進んでいく気持ちの強さは、なかなか他の人が真似できるものではないと思います。 将棋は、年齢や経験の量とは関係のない人間対人間の戦いです。八冠制覇の翌日の会見で藤井さんは、全タイトルで追われる立場になったことについて、「盤を挟んでしまえば立場の違いはまったくない」と語っていました。彼のなかには、対戦相手が何十歳年上でも年齢差を忘れ、「それがどうだというんだ」という気持ちがあるはずです。 藤井さんは、まだ二二歳の若さです。将棋という仕事を離れれば、彼も二〇代の青年として、年齢や経験の異なる人たちからさまざまなことを学び、経験を積んでいかなければなりません。これからは私生活でいろいろな変化があるでしょうし、タイトルの防衛をはじめとする大きな試練も待ち構えていますが、今以上の生き方ができるよう経験をさらに積み、試練に負けることなく世界に目を開き、さまざまな国々の人々とともに活躍をしていただきたいと、長い目で期待しています。 六三歳年上の友人として、心から応援しています。 ※年齢は2023年当時 さらに連載記事〈ほとんどの人が老後を「大失敗」するのにはハッキリした原因があった…実は誤解されている「お金よりも大事なもの」〉では、老後の生活を成功させるための秘訣を紹介しています。
丹羽 宇一郎