石破首相と日銀、じつは「アンチ安倍仲間」で急接近していた⋯!? 水面下で日銀が進めた「石破取り込み作戦」の一部始終
選挙後に「腹合わせ」のつもりが…
最大の後ろ盾だった岸田文雄前首相が8月半ばに退陣表明して以降、日銀も政局には敏感となっていた。植田総裁が9月以降「経済・物価の見通しが実現していけば金融緩和の度合いを調整していく」と金融正常化路線を堅持しつつ、新政権の発足や早期の解散・総選挙を念頭に「政策判断に当たっては時間的余裕がある」と、性急な利上げに走らないハト派寄りの姿勢を示していたのはそのためだ。 「余裕」ができた背景には、財務省による大規模な円買い・ドル売り介入と7月の金融政策決定会合での「前倒し利上げ」の効果で、行き過ぎた円安が是正され、1ドル=140円台前半で安定してきたことがあった。 内田真一副総裁(1986年入行)ら企画局ラインは、円相場が当面大きく動かないことを前提として、12月か1月の追加利上げを念頭に、衆院選をこなした石破政権と本格的な腹合わせしたい意向だった。 経済・物価情勢を見て金融政策を判断するのが日銀の建前だが、実際には「政治」や「為替」の動向を無視して政策変更するわけにはいかない。為替については、黒田東彦総裁時代の異次元緩和の隠れた狙いが、景気や物価に悪影響を及ぼす円高の是正だったことは「公然の秘密」(霞が関筋)。植田日銀が市場の想定を覆して7月利上げを強行したのは、円安に歯止めを掛けるためだった。 官邸の理解を得ることはもっと重要かもしれない。安倍晋三権時代には言い出すことさえ憚られた異次元緩和の幕引きに、植田日銀が今春着手できたのは「岸田官邸と脱アベノミクスを目指す方向性で一致していた」(内田副総裁周辺筋)からだ。
「アンチ安倍」という共通点
「日銀は石破氏ともかねて近しい関係を築いてきた」。日銀OBはこう解説する。 党内最大勢力の安倍派議員らから、「デフレからいつまでも脱却できないのは金融緩和が手ぬるいからだ」と激しいバッシングを浴びた2008~2013年の白川方明総裁(1972年入行)時代に、「アンチ安倍」という同類意識からか両者は接触を重ねた。 当時、副総裁だった山口広秀氏(1974年同)ら白川総裁体制下のプロパー幹部には、インフレ目標を押し付け、中央銀行の独立性を脅かそうとする安倍氏らリフレ派に対抗する狙いがあったという。 2012年末の安倍政権となり、リフレ派の黒田東彦元財務官が総裁に送り込まれて以降、日銀の現役幹部が「党内野党」の石破氏のもとを訪れることは難しくなったが、山口元副総裁に連なる有力OBがパイプを繋ぎ続け、石破氏を日銀シンパとして抱え続けてきた経緯がある。 5度目の総裁選挑戦を成就させ、石破政権が発足した今、本来なら、日銀の長年の苦労が報われようというものだが、政治の世界はそんなに甘くはない。 「市場に歓迎されない首相」とのレッテルを貼られることを警戒する石破氏は一議員時代のように「金利を上げていかなければ日本経済は正常化しない」などと正論を吐くだけでは務まらない。総裁選で惜敗した高市氏が自民党総務会長ポストを断るなど対立姿勢を鮮明にする中、仮に石破氏が利上げ容認に傾き、株価が大きく崩れれば、政権批判の格好の材料にされかねないからだ。 石破側近の赤沢亮正経済財政・再生相が就任早々の閣議後の記者会見で「首相が金利引き上げに前向きだと言われるのは、全体の絵として必ずしも正しくない」と市場やマスコミを牽制したのは、党内基盤が脆弱な事情を熟知していたからだ。