これぞ球史に残る「大総力戦」 ベンチに残っていた“最後の1人”が試合を決めた!
ベンチ入りしている選手を使いはたしてしまうような総力戦では、時には思いがけないヒーローが誕生することもある。ベンチに残っていた最後の野手が、球史に残るでっかい仕事をやってのけたのが、1971年5月3日のロッテ対東映だ。 9連敗中の東映は、5点ビハインドで敗色濃厚の9回に集中打で同点に追いつく執念を見せ、6-6の延長10回にも、2長短打と四球で二死満塁のチャンスを作る。 次打者は9番投手の皆川康夫。当然代打の場面だが、9回の猛攻の際に野手を使いはたしていた東映は、この日まで9打数無安打とまったく当たっていない外野手兼捕手の作道烝しか残っていなかった。 それでも田宮謙次郎監督は「投手よりはまし」と勝負をかけた。もし、作道が凡退し、この回の攻撃が無得点で終われば、10回裏は前々日に先発、前日にリリーフした金田留広の疲労を承知のうえで3連投させるしかない。 一か八かの賭けだったが、「無心だった」という作道は、カウント1-1から佐藤元彦のカーブが真ん中に入ってくるところを見逃さず、左翼席に決勝の満塁ホームラン。値千金のグランドスラムに、作道は喜びのあまり、三塁ベースを回ったところで、思わず「バンザーイ!」と叫んだ。本塁でヒーローを出迎えた東映ナインも「これで連敗脱出だ!」と気勢を上げた。 ◆ まさかの「5者連続」ホームラン だが、ビックリ仰天のドラマは、これがほんの序曲に過ぎなかった。 次打者の1番・大下剛史が左越えソロで続き、さらに2番・大橋穣も左越えに3者連続のアーチをかける。 たまりかねたロッテ・濃人渉監督は、3番・張本勲に対し、左腕・佐藤政夫をリリーフに送ったが、張本は「ヤケクソだったなあ。思い切っておっつけて打ったんだよ」とこれまた左越えに4者連続本塁打。そして、とどめは9回に反撃の呼び水となるソロを放った4番・大杉勝男が「もう狙っていましたよ」と左越えに日本新記録となる5者連続弾を叩き込んだ。 ベンチに唯一残っていた無名のヒーローの一発が呼んだ歴史的快挙に、田宮監督も「作道がよく打ってくれたね。5連続ホーマー? 打つたびにこれまでのモヤモヤがすっ飛んでいったよ」と笑いが止まらなかった。 前出の作道同様、「残り物には福がある」を地で行くような快挙が実現したのが、2003年7月18日の横浜対巨人だ。 1-5とリードされていた横浜は、8回に一挙4得点で追いつく粘りを見せ、試合は5-5のまま延長戦へ。 そして、11回裏、横浜は先頭の万永貴司が右前安打で出るが、この回からマウンドに上がった巨人の5番手・鴨志田貴司に小川博文、中根仁が連続三振に打ち取られ、たちまち二死となった。 だが、制球に難のある鴨志田は、金城龍彦、石井琢朗に連続四球で満塁にしてしまう。そして、投手の加藤武治に打順が回ってきたところで、山下大輔監督が代打に指名したのが、ベンチに残っていた最後の野手で、プロ2年目の小田嶋だった。 7月2日のヤクルト戦で、8回に石川雅規から中越えにプロ1号を放ったばかりの小田嶋は、内角を狙った鴨志田の投球が甘く入ってくるところを一振すると、左中間席に飛び込むサヨナラ満塁ホームランになった。 「サヨナラ本塁打も満塁本塁打も記憶にありません」と信じられない表情の小田島だったが、代打満塁サヨナラ弾は史上14人目の快挙で、横浜にとっては、球団史上初。チームのサヨナラ勝ちも、2001年9月26日の阪神戦以来、1年10ヵ月ぶりだった。 これには山下監督も「何も言うことはない。待ちに待った勝ち方です」とニコニコ顔だった。 「残り物に福」の次は、「昔取った杵柄」でヒーローになった男を紹介する。1998年9月8日のオリックス対西武、2-2で迎えた延長11回裏に思わぬアクシデントが起きた。 オリックスの先頭打者・日高剛が一ゴロの際に、バックアップで一塁に向かおうとした捕手・中嶋聡が、ネクストサークルにあったバットリングを誤って踏んでしまい、右足首を痛めてしまう。 靭帯損傷の可能性もあり、これ以上試合に出るのは無理。だが、この時点で西武はベンチ入りの野手16人すべてが出場しており、代わりの捕手もいない。 そこで、東尾修監督は窮余の一策として、捕手経験のあるファースト・高木大成を代役捕手に指名し、DHを解除して、マルティネスにファーストを守らせた。 打力を生かすために前年から内野手に転向した高木は、捕手の練習はまったくしていなかったが、そこは昔取った杵柄。中嶋のプロテクター、正捕手・伊東勤のミットを借りると、橋本武広と急造バッテリーを組み、次打者・谷佳知を二ゴロ、田口壮には四球を許したものの、イチローを三振に打ち取り、無失点で切り抜けた。 さらに12回もニール、藤井康雄を連続三振、佐竹学を遊ゴロと3者凡退に打ち取り、2-2の引き分けに持ち込んだ。 4チームによる優勝争いの渦中で負けは許されない西武にとっては、勝ちに等しい引き分け。東尾監督も「大成が役に立った。引き分けでも良しとしなきゃ」と大喜び。一方、高木は「みんな笑っていたけど、笑ってられませんでした。明日はやりませんよ」と1日で懲りた様子だった。 文=久保田龍雄(くぼた・たつお)
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