ファウスト・ピナレロ氏インタビュー 「ピナレロがピナレロである理由」
性能だけでは満足できない
安井:ピナレロのようなブランドのトップモデルは、ただ高性能なだけでなく、見た目も美しく魅力的であることが求められています。開発をするうえで、バイクの見た目はどのように意識していますか? ファウスト:その通り。ロードバイクに必要な要素は性能だけではありません。見た目も大切です。ピナレロというロゴがなくても、人目でピナレロだと分かるようなバイクを作りたいと常に思っています。プロ選手の要望、エンジニアのアイディアや技術、魅力的なルックス。その3つの要素を上手く組み合わせて1台のバイクに仕上げるのが私の使命。かつてはシンプルなスチールチューブを溶接するだけだったので比較的容易でしたが、今はシミュレーション、風洞実験、カーボンファイバーなどの新しい技術が出てきたので、完璧に融合させるのはなかなか難しいですけどね。 安井:では、エンジニアが「こうしたほうが性能がよくなる」というアイディアをもってきたとして、でもルックス的にそれがあなたの御眼鏡にかなわなかったとき、どうするんですか? ファウスト:一方的に否定したり、無条件に受け入れたりすることはありません。話し合いをして、「なぜその技術を採用する必要があるのか」「なぜ今のままではいけないのか」と、対立ではなく議論をしながら進めます。わが社には昔から働いてくれているエンジニアも多いので、彼らがピナレロのDNAを理解してくれていることも大きいですね。 安井:なるほど。そういうところが、北米系が強い現在のロードバイク界にあって、ピナレロが存在感を維持できている理由であるように思います。さて、昨年ピナレロはLVMH傘下から離れ、現在は新たなオーナーのもとで事業を継続していますね。資本が再び変わったことで、ピナレロの方針に影響はありますか? ファウスト:新しいパートナーは自転車好きなんです。自転車に対して情熱がある人物で、ハイエンドサイクルウエアメーカーのオーナーでもあります。ブランドを買って成長させて売却して儲けることが目的ではなく、ピナレロというブランドとともに自分も成長したいと思ってくれているんです。彼のその方針のおかげで、私はより開発に専念できるようになりました。 安井:それはよかったです。では、この新型ドグマは、どんな人に乗って欲しいですか? ファウスト:もちろん全員です(笑)。私の夢は、世界中の人が自転車を楽しむようになること。それがピナレロならよりいいですね(笑)。新しいドグマFは本当にファンタスティックな仕上がりです。早く乗ってみてください。 安井:試乗が楽しみです。ありがとうございました。
Fausto Pinarello
ファウスト・ピナレロ。 イタリアを代表するレーシングバイクブランド、ピナレロの2代目社長。創業者であり父であるジョバンニ・ピナレロ氏はプロ選手としても活躍した人物。ファウスト氏は学業終了後、家業であるピナレロ社の業務を手伝い始め、父からバトンを渡されたあと、世界的なブランドへと成長させた。業務内容は、フレームの設計をはじめ、グラフィックとカラーの検討、スポンサーや自転車関連団体とのやりとり、手ストラーダ―など多岐にわたる。60歳を過ぎた今でもグランフォンドなどに積極的に参加する健脚の持ち主。 編集:バイシクルクラブ編集部 文:安井行く生 撮影:バイシクルクラブ編集部
Bicycle Club編集部