猪木ーアリ戦 40年目の公開検証試合が伝えたものとは?
今回、モヨは、元ボクシングのWBF世界王者という触れ込みで来日した。だが、ボクシング界ではWBC、WBA、IBF、WBOの主要4団体以外のベルトなど評価しようのないタイトルで、モヨは、2013年以来、ボクサーとしては試合をしていない。「本物の元世界王者は、なかなか引っ張ってこれないから」と、谷川氏は説明したが、プロレス方式に大風呂敷を広げて、「40年目の猪木ーアリ戦の公開検証」と言われても、リアル感、緊張感はない。 谷川氏に「このカードは格闘ファンに刺さったかと思うか?」とストレートに聞くと、「刺さるはずのテーマであったが、正直、難しかった。新間さん(元新日本プロレスの敏腕フロントで、猪木ーアリ戦を仕掛けた)を引っ張り出すなど、プロレス側からのいろんな仕掛けを考えたが、うまくいかなかった」と言う。 巌流島は、世界の未知の格闘技や、達人と呼ばれる格闘家までを次から次へとリングにあげて、少々、時代に逆行するような異種格闘技感を求めている。今回も、見出しにはなりそうな「喧嘩フットボールの猛者」、「カマキリ拳法」、最も過激な「ミャンマーラウェイ」の英雄、空道の世界王者らが参戦した。それはそれで格闘ファンの奥底にある琴線に触れようとしている面白いコンセプトであるが、直前にコロコロと対戦相手が変わったり、前述したように二流の元ボクサーを元世界王者と誇大宣伝して連れてくるようなやり方は、情報時代にはそぐわない。 1ラウンドに3回、押し出され、円形の「闘技場」から転落すれば負けという、相撲とグラップリング攻防のない総合をミックスさせたような現状のルールも、その格闘技が持つ長所が、なかなか伝わりにくい。しかも、押し出しを考えた戦略を練るファイターまで出ていて、“押し出しゲーム”にお金を払うファンがどれだけいるのだろう。 UFCから出戻った菊野克紀(沖縄空手)が、一撃の右フックで、わずか4秒でKO勝利するなど、最高レベルの戦いを求める格闘ファンを満足させるような一戦もあったが、玉石混合のイベントでは、チケット購買意欲はわかない。谷川貞治氏は、「もっと満員の観客であれば盛り上がりも違ったと思う。達人などが話題にはなったが、まだファンの議論が、そこから外に広がっていかない。そこをどう知ってもらうかが課題」と、巌流島がぶち当たっている壁について口にした。谷川氏の総括会見にも格闘ネットメディアが3社ほどいただけ。なぜメディアの関心が薄いのかを主催者は考えるべきだろう。 話は脱線したが、この日の公開検証試合で、40年前、プロレスラー絶対不利のルール内で、アリキックを見出して、15ラウンドを戦い抜いた猪木の発想力と、そのフィジカル、スタミナ、テクニックは、改めて評価すべきことはわかった。今なお、あの試合は、エキジビジョンだったのではないか、の“そもそも論”が残っていることも確かだが、今や市民権を得たMMAのルーツであることは間違いない。 そして、ボクサーvsプロレスラーの異種格闘技戦は、最強を決めるという観点では、決して成立しないということも、検証結果として出た。だが、それは検証するまでもなく、やる前からわかりきっていた答えだった。モハメッド・アリが死去したタイミングで、ファンの関心を呼びたいという企画だったのだろうが、病院送りのリスクを負った田村選手が、気の毒でならないし、厳しく見れば、ファンの共感を得ることも少ないナンセンスな試合だったのかもしれない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)