<米大統領選>トランプ氏が支持率で猛追 逆転の可能性はあるのか?
いよいよ11月8日(アメリカ時間)にアメリカ大統領選挙の一般投票が行われます。支持率で急追する共和党候補のドナルド・トランプが逆転する可能性はあるのか、考えてみます。(上智大学教授・前嶋和弘) 【写真】相次ぐサイバー攻撃 関与を指摘されるロシアとトランプの関係は?
(1)組織力の差
電子メール問題の再捜査決定をFBIのコミ―長官が発表した10月末以来、それまで「クリントンで確定」と思われていた選挙戦の状況が一気に大きく揺らいでいます。トランプの逆転勝利の目もあるのではないかという指摘すら、アメリカでも少し出てきました。実際にここ1週間のトランプの急追は信じられないほどであり、逆に言えば、それだけクリントンへの国民の信頼が厚いものではないことを如実に示しているといえます。 それでも次の3つの理由からクリントンがやや有利な状況は変わりません。 まず、組織力でクリントンは大きくトランプを上回っている点です。上述のように一般投票では激戦州をめぐる陣取りゲームが本選挙の最大のポイントです。特に選挙戦の最後の最後には、両党の候補者は選挙運動に投じる予算や時間をできるかぎり激戦州に重点的に配分し、その中でも、投票促進運動(GOTV運動)という地上戦が激戦州では大々的に繰り広げられています。投票促進運動とは、選挙に行くかどうかわからない無党派中で民主・共和いずれか寄りの層をビックデータで割り出し、ボランティアを使った頻繁な戸別訪問で投票を促す手法である。クリントンの場合、選挙資金も潤沢で組織力でもトランプに大きく勝っています。この“どぶ板選挙運動”で勝ち抜けやすいのは、やはりクリントンです。 トランプは選挙組織が弱い分、アメリカの選挙では伝統的な手法といえる、選挙CM(空中戦)に頼っています。自分の選挙資金で賄う分もありますが、その多くがトランプを押す外部応援団であるスーパーPACが提供しているCMです。スーパーPACは候補者陣営とは直接の関係がない「独立支出」を使った意見広告を提供する政治資金の再配分機関です。 2010年の最高裁判決で意見広告が選挙規制の枠外となることが確認されたため、スーパーPACは集めた資金を無尽蔵に投入することができるようになっています。これはトランプだけでなく、クリントン陣営でも同じですが、「直接の関係がない」とはいっても、スーパーPACは陣営に近い人物によって実際には運営されており選挙資金規正法の抜け穴となっています。トランプを支持するスーパーPACは、ここ最後の1週間に集中してトランプ批判のテレビCMの放映を連日提供し、クリントンのイメージ低下を進めています。ただ、クリントンを応援するスーパーPACも活発なので、「独立支出」を使ったネガティブキャンペーンCM合戦はどちらがトランプ有利とばかりとは言えない形です。