女優 奈緒さんが考える、保健体育では教わらない「性」の伝え方…大人になるからだを「どう受け止めるか」もっと知りたかった
生徒指導室で語られた「性の格差」
――原作・映画ともに重要なシーンがあります。奈緒さん扮する美鈴が、担任する男子生徒・新妻役の猪狩蒼弥さんと性の格差について話す場面です。原作に比べて、映画ではどのような人が観ても誤読できないほど言葉を適切に足していらして、安達奈緒子さんの脚本に唸らされました。女性の無力さがより伝わるシーンになっているといいますか…。 私は三木監督と安達先生とのお話し合いには参加していないので、全ての状況はわからないのですが、実は決定稿になる前から途中段階の脚本も読ませていただいていました。ブラッシュアップしながら決定稿にたどり着いていたので、鳥飼先生が『先生の白い嘘』で描かれたことをどうすれば正しく伝えられるのか、ということをとても丁寧に考えられていたように感じていました。 ――三木雄一郎監督とは、事前に話し合うことはありましたか? 現場に入る前段階で、監督とお話をする機会がありました。その際に三木監督が長年『先生の白い嘘』を映像化したいと熱望していらしたということを伺ったんです。監督の今までの撮られてきた作品から考えると、意外だなと思いました。 ですから監督には、原作に対しての1つの視点と理解があるのだろうなと思っていましたし、一方で監督自身は主人公の美鈴についてわからない部分もおありになるんだろうなと。だからこそ、深く描いてみたいし、向き合ってみたい。そんな風に思われたのかなということを、監督との会話の中で強く感じたんです。それだけに、美鈴を演じることについては基本的にゆだねていただけたと思っています。
原作で大切な土台を1つずつ積み上げた
――今回演じられた美鈴の役は、心のバランスを保つことも大変だったのではないでしょうか。 物語の中で切り取られている美鈴の人生は、想像を絶するつらい出来事によって大きく歪みはじめます。なので、もしも描かれているような出来事が起きなかったら、美鈴はどんな人だったんだろう。はじめにそのことを考えました。 その中で大きなヒントになったのは、美鈴の思春期の頃からの友人である美奈子との関係でした。原作でも、美奈子との回想シーンは何度も出てきます。一番念頭に置いたのは、美鈴はありふれた日常を懸命に生きていたひとりの女性だったということ。そういった気持ちで、映画の中で美鈴として生きられたらいいなと。 もともと読者として原作を読んでいた時は、まさか美鈴を演じるとは予想していなかったので、「それぞれの登場人物の思いが描かれる中で、さまざまな人の立場に立って考えることができる原作だな」と思っていたんです。美鈴の心に近づくためには、そういった原作で土台となっている部分を丁寧に重ねていかないといけない。そして実際に現場へ行けば、目の前で起きることによって大きく傷つく瞬間もあるだろうと…。とにかく覚悟だけは握りしめて、ロケ地である富山県を訪れました。 ――実際の撮影の日々を振り返って、今、どんなことを感じていますか。 これほどつらかったことはないというくらい、正直苦しかったです。もちろんお芝居ではあるのですが、撮影で起きたことは自分の記憶の中に強烈に残っています。お芝居でもあんなに怖かったことを、果たして映画が公開される時に、自分の中できちんと咀嚼してお話しができるだろうか。撮影が終わってからのこの2年間、ずっと不安がありました。 映画のラストは最後、希望につながっていくような作品に仕上がっているので、あとは受け取られたみなさんがどう感じてくださるか。私としては、もう願うような気持ちです。