デンソーやアイシンが参画、自動車メーカーの「大部屋」で何が行われているか
■調達同盟 設計・開発部門を味方につけるといっても、実際の取引で部品メーカーが相対するのは購買部門である。彼らは初期の見積り金額からいくら減額したか、価格の定期改定のときにどれだけ単価を下げたかがKPI(目標管理指標)になるため、当然手強い存在となる。また、汎用的な製品に関しては、緻密な原価企画のもと、頑張れば届くような絶妙なラインで交渉を持ちかけてくることも多い。 ただし、自動車メーカー側にも持っていきたいシナリオがある。ここでいうシナリオとは、サプライチェーンのリスクマネジメントや部品共通化の観点から、この製品はデンソー、この製品はボッシュから購入したい、といった意向のことを指す。強い関係性をつくり、同盟を結ぶ中でこれらの情報を入手し、競合他社が過去に何の部品の見積りをいくらで出したかの情報をストックできれば勝ちである。受注できる算段がついている領域は強気の値付け、そうでない領域は弱気の値付け、といったかたちのメリハリをつけた価格設定が可能となるからだ。 トヨタのようにある程度の幅の中で部品の仕入れ数量をコミットしてくれるようなケースでは、その条件を頼りに単価を下げ、コンペで勝ち切るという手も使える。実際に、月産の数量によって単価テーブルを3つ程度用意し、各テーブルの下限値を下回った場合、次のテーブルの単価を適用することでスムーズな値上げ交渉を実現している部品メーカーもある。 自動車メーカーからは年に2回、部品調達価格の定期改定を要請されるのが業界の通例だ。全部品を対象とした一斉改定であるが、一律に値下げ要請に応じるのではなく、設変によって価格が上がった部品や他社にない付加価値がある部品に関してはいまの取引価格を維持する。競合とのコンペで置き換えられるリスクのある部品は価格を下げる。トータルとして利益を留保できるよう、交渉の駆け引きを行う。 ただし、これは言うは易し、行うは難しだ。というのも、部品メーカー側の担当者は製品ごとに分かれている。これでは製品全体での柔軟な交渉は切り出しづらい。例えば、デンソーのように、製品横串で全社の利益を見る担当者を置き、営業の定量的なノルマも小さくするような仕組みがなければ実現は難しい。
下 寛和