「120%本人だ、信用してくれ!」...”不動産のプロ”が「地主」に会わせてもらえず不安を抱えながらも「不審な土地取引」を続けてしまったワケ
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第36回 『肩書は「大物弁護士事務所のオーナー」...“地面師”が相手を騙すために行う緻密すぎる「ブランディング戦略」』より続く
代理人の山口
吉永の説明によれば、くだんの土地取引は、所有者である呉の代理人から持ち込まれたものだという。そこにももう一つカラクリがある。今となっては地道も首を傾げっぱなしだ。 「吉永によれば、その代理人と称する男が山口芳仁という呉さんの運転手兼ボディガードで、身のまわりの世話をしているとの話でした。山口は呉さんの資産管理を任されていて、今回の件を持ってきたのだという」 富ヶ谷の土地取引は、呉の代理人と称する山口を窓口にして進んだ。表向き山口は「ジョン・ドゥ」というコンサルタント会社社長の肩書を持っている。が、正体はまさに不明だった。地道たちにしてみたら、山口はあくまで代理人だから、地主である呉と直接交渉すればいい。そう安易に考えてしまったという。 「ところが、肝心の呉さんが腰を痛めて銀座の病院に入院しているといわれ、なかなか会わせてもらえない。仕方なく山口に会おうとしても、それすらズルズル引き延ばされてしまう始末でした」
「間違いない、信用してくれ」
すでにこの段階でかなり怪しげではある。半面、取引では“大物弁護士”の諸永自身が正式な立会人になっていた。 それも地道たちが取引を続けた一因になっている。地道が苦々しく補足説明する。 「といっても取引の窓口に立つのは諸永ではなく、吉永でした。そこで、まずわれわれは当の呉さんと会いたいと吉永に伝えたのですが、もったいをつける。吉永は『呉さんとは何度もここ(諸永事務所)で会っているので、120%本人に間違いない。だから信用してくれ』とまで言うのです。 その上で吉永は、『呉さんの土地を買いたいという希望者は他にもいる。売買の決済はいつまでにできるのか』と急かすのです。土地の売買契約については、呉さんが高齢なため売買契約の手続きを諸永事務所でおこなうという。それで、そのまま取引を続けたのです」 地道は不安を抱えながらも、あきらめず交渉を続けたという。
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