大谷翔平は「天性の勝負師」 現地取材の記者は「ヒリヒリするような戦いを楽しんでいる」
■窮地でも泰然自若 実際にドジャースは苦戦した。1戦目は7-5で先勝したが、2戦目にダルビッシュ有を攻略できずに2-10で大敗を喫すると、3戦目も5-6で競り負けて王手を掛けられた。窮地に追い込まれ、フリーマン、ミゲル・ロハスと主力の2人が故障を抱えて満身創痍の状態に。だが大谷は泰然自若の姿勢を貫いた。記者会見で、「ここまで1勝2敗というのも別に考える必要もないですし、単純に2連勝するゲームだと思えばいいんじゃないかなと思います」と語った。 有言実行の戦いを見せる。4戦目は大谷が2回に2点目の右前適時打を放つなど8得点を奪い、「ブルペンデー」で8投手をつぎ込んで完封勝利。雌雄を決する5戦目の先発マウンドを託されたのは山本だった。5回を2安打無失点に抑えると、打線がダルビッシュから2本のソロで得点を奪い、2-0でローゲームを制した。ドジャースを取材するスポーツ紙記者は、「ワールドチャンピオンになったら、この試合が分岐点になると思います」と強調する。 ■重圧を力に変えて 「山本を見たら試合前の表情が顔面蒼白だった。あんなに緊張した姿はオリックス時代も記憶にない。相当な重圧が掛かっていたと思いますが、パドレス打線に臆せず腕を振った。メジャー挑戦1年目の今年は故障などで思うようにいかなかったですが、大きな自信をつかんだと思います。完璧に近かったダルビッシュの2球の失投を見逃さず、アーチを打ったキケ・ヘルナンデス、テオスカー・ヘルナンデスもすごい。この勝利後のシャンパンファイトで、ドジャースの選手たちがチームメートと喜びを爆発させていたのが印象的でした。それほど苦しい戦いだったのでしょう。この試合に勝った意味は非常に大きい」 現地で取材するフリーライターは、大谷を「天性の勝負師」と形容する。
「ヒリヒリするような戦いを楽しんでいるように感じます。侍ジャパンで世界一に輝いたWBCもそうですが、大舞台で重圧を力に変えられる。低迷期が続いていたエンゼルス時代は葛藤があったと思います。昨年は自身初の本塁打王に輝き、投手でも10勝を挙げて2度目のア・リーグMVPを受賞したが、9年連続でプレーオフ進出を逃した。勝利への飢えが一層強くなった時にドジャースへ移籍したことで、本気で世界一を狙える充実感が潜在能力を引き出しているように感じます」 昨年9月に受けた右肘手術のリハビリのため、打者に専念した今季は新天地で打率・310、54本塁打、130打点をマーク。首位打者は逃して三冠達成はならなかったが、本塁打王と打点王を獲得した。メジャー史上初の「50本塁打、50盗塁」を達成し、ナ・リーグMVPの有力候補に。 ポストシーズンでも勝負強さが光る。パドレスとの地区シリーズ第1戦で1号3ランを放った後に長打がなかなか出なかったが、ナ・リーグ優勝決定シリーズのメッツ戦3戦目で、8回に弾丸ライナーで右翼ポール際に特大3ランを放つと、4戦目は左腕のホセ・キンタナから右中間に先頭打者アーチ。ポストシーズンで走者なしの打席は25打席連続無安打だったが、26打席目で初めて快音を響かせた。21日の6戦目も6回に中前適時打を放つなどマルチ安打の活躍で勝利に貢献。ナ・リーグ優勝決定シリーズの6試合は打率・364、2本塁打、6打点。出塁率・548と申し分ない数字でメッツを4勝2敗で下し、ワールドシリーズに進出した。(ライター・今川秀悟) ※AERA 2024年11月4日号より抜粋
今川秀悟