女の子を殺したのは本当に死刑囚だったのか ドキュメンタリー映画『正義の行方』 登場人物それぞれの“真実”
たどり着いた”自分にとっての正義”
関係者が「それぞれの正義」を抱えていく中で、木寺監督は今どう思っているのでしょうか。 木寺監督:三者にそれぞれ向き合って、ある種公平に、先入観を持たずに、しかもできるだけ等距離に向き合う。それぞれとちゃんと向き合うことを課してやったんですね。本当にその立場に立つと「なるほど」ということもありますし、疑問を持ったら聞き直す。そういうのを繰り返していった取材でした。できるだけ一方的にならずに、全てはご覧になる方々が自分の目で情報を判断できるよう提供する。判断するのはご自身たちがそれぞれの価値観で判断すればいい。ぜひそうやってほしいという思いで作った形です。 木寺監督:正義はそれぞれの立場で違う。あるいは時代を追って変わっていくかもしれない。その正義を見るんだ。裁判の行方を追って、「これが真実なのか」「真犯人は誰か」という目線でそれを見ていくと、やっぱり泥沼に入っていくんです。ずっと提案が通らなかったあの頃に戻って、あがいていく。でも今回出会った人たちの強い思い、正義を掘り下げることは僕にだってできるかもしれない。そこには何かがあるんじゃないかな、と。「三者をぶつけてみたい」というのが、自分のたどり着いた”自分にとっての正義”ですね、それが。
宮崎さんが言っていた「正義を相対化する作業」。この映画自体がそういう作業になっている気がします。それぞれの証言が食い違って、本当の事実が何なのかわからなくなるのは、黒澤明監督の映画『羅生門』とも重なります。監督自身も意識していた、とパンフレットのインタビューに答えています。この映画には「これは私たちの『羅生門』」というコピーが付けられています。 映画『正義の行方』は、福岡市ではKBCシネマで上映中。北九州市の小倉昭和館では5月4日(土)から、初日は午後1時45分の回の後に、木寺監督と宮崎昌治さんのトークショーもあります。
◎神戸金史(かんべ・かねぶみ) 1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュースやドキュメンタリーの制作にあたってきた。報道部長、テレビ制作部長、ドキュメンタリーエグゼクティブプロデューサーなどを経て2023年から報道局解説委員長。最新ドキュメンタリーは映画『リリアンの揺りかご』(U-NEXTで有料配信中)。